ブリューヌ激動編
第3話『約束の為に〜ティッタの小さな願い』
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度も塗り替える。白を強引に黒へ、その二色をはっきりさせようとしている。時代という大海原はいつまでも、平和というさざ波のままではいられない。時代の風が煽るから戦争や革命といった荒波も訪れる。それ故に、世界という船は的確な判断を下して舵を切り、動乱を乗り越えなければならない。
アルサスという小舟もまた、例外ではない。
少し数える間をおいて、ティッタは言葉を紡ぐ。
「いいんです。後悔はありません。ティグル様の帰りを待ち続けます。何があっても真っ先にお迎えしたいんです」「くだらねぇ」
無垢な笑顔でそういった。その献身的な笑顔が、凱にはとても痛々しく見えた。
だから……
「お迎えしたい?簡単に言うな!」
だから……つい苛立ってしまう。結局は何もできない自分自身に、健気で優しいティッタに、焦土作戦を決行するテナルディエに、それに対する危機感のないアルサスに、そして、これまでの遠因を作ったブリューヌ王国に、ジスタート王政府に、ライトメリッツに、ヴォルン家の当主に、銀閃の風姫に対して、握りこぶしを作っていた。
驚いたティッタは凱と視線をあわせ、凱の突然のセリフに固まってしまう。
「ガイ……さん?」
少し震えた声で、凱は言った。やはりその声は先ほどと同じで力強さのないものだった。だが、それは想いが募るほどに徐々に増していく。
「……死んじまうんだぞ。もう二度と……会えなくなるんだぞ!死んじまったら……もう」
これ以上凱は、涙腺が緩みそうになって、うまく呂律が回らない。それは、ティッタとて同じだった。
「簡単になんか……言ってません」
「ティッタ?」
「あたしにとって、ここがティグル様とあたしを繋げてくれる唯一の場所なんです。もし、ここが消えてしまったら……消えてしまったら」
それ以上言うのがつらいのか、涙声に言うティッタ。
心と心を唯一繋とめてくれる場所。当主と侍女という身分の違いがあっても、全然かまわなかった。僅かな繋がりでも、嬉しかった。
「ガイさんは、あたしがティグル様をお迎えしたい事を「くだらない」といいましたけど……たった一人の大切な人を待ち続けるのが、そんなにくだらないことなんですか?」
それは、ティグルの記憶にあって、凱の知らないティッタの姿――
彼女の口から出た痛烈な言葉。凱は押され、ただ聞くがままになっていた。
――驕り――
……当たり前だ。たかが数日程度の還啓でティッタの事を、知った風な口を聞いていいはずがない。
どうせ叶わない願いなら、いっそ、自分の望む姿『主を待ち続ける侍女』を貫き通したい。もしかしたら……いいや、本当に、そんな風に考えているのか……
ティッタにも本当は分かっていた。凱だって、本当はこんなことを言いたくないのを
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