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Sword Art Rider-Awakening Clock Up
ダークリパルサー
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そのまま街の
端
(
はし
)
っこ、プレイヤーのいない場所を目指して
一心不乱
(
いっしんふらん
)
に駆け続けた。
視界が歪むと、右手で眼を拭った。何度も何度も拭いながら走った。
気づくと、街を囲む城壁の手前まで来ていた。緩やかに
湾曲
(
わんきょく
)
して伸びる壁の手前に、大きな樹が
等間隔
(
とうかんかく
)
で植えられている。その1本の陰に入ると、樹の
幹
(
みき
)
に手をついて立ち止まった。
「うぐっ……うっ……」
喉の奥から、抑えようもなく声が漏れた。必死に堪えていた涙が、次々と溢れ出しては頬を伝って
消えていった。
この世界に来て二度目の涙だった。ログイン初日にパニックを起こして泣いてしまってからは、もう決して泣くまいと思っていた。感情表現システムに無理矢理流されられる涙なんて御免だと思っていた。でも今あたしの頬を伝う涙より熱く、辛い涙は、現実世界でも流したことはない。
アスナと話している時、喉元まで出かかっていた言葉があった。「あたしもあの人が好きなの」と、何度も言いかけた。でも、言うわけにはいかなかった。
工房で、向き合って話すキリトとアスナを見た瞬間、あたしは、自分のための場所がキリトの隣にはいないことを悟った。なぜなら、あの雪山で、あたしはキリトの命を危険に
晒
(
さら
)
してしまったから。あの人の隣には、あの人と同じくらい強い心を持った人しか立てない。そう……例えば、アスナのような……
向かい合う2人の間には、丁寧に仕立てられた剣と鞘のように強く引き合う磁力があった。
あたしはそれをハッキリと感じた。それになにより、アスナはキリトのことを何ヶ月も想い続けて、少しずつ距離を縮めようと毎日頑張っているのに、今更そこに割り込むような真似が、できるはずもなかった。
そうだ……あたしは、キリトと知り合ってまだ1日しか経っていない。見知らぬ人と慣れない冒険をして、心がびっくりしているだけだ。本物じゃない。この気持ちは本物じゃない。恋をするなら急がずにゆっくり、ちゃんと考えて……。あたしはずっと、ずっとそう思ってきたはずだ。
なのに、なんでこんなに涙が出るんだろ。
キリトの声、仕草、この24時間で彼の見せた全ての表情が、次々と
瞼
(
まぶた
)
の裏に浮かび上がる。あたしの髪を撫で、腕を取り、手を強く握り返してくれた彼の手の感触。彼の温かさ、あの心の温度。あたしの中に焼きついたそれらの記憶に触れるたび、激痛が胸の奥を深くえぐる。
忘れるんだ。全部夢だ。涙で、洗い流してしまうんだ。
街路樹の
幹
(
みき
)
に指を立て、強く握り締めて、リズベットは泣いた。俯いて、声を押し殺し、泣き続けた。現実世界ならいつかは枯れるはずの涙だけど、両目から溢れ出す熱い液体は、どれだけ流そうと尽きることはないように思われた。
そして
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