第一章 鉄仮面の彦星
番外編 アウラの門出
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上は仰っておりましたわ。美しい緑に囲まれた地球には、愛に溢れた人々が住んでいると……。その平和を脅かす敵とあらば、是が非でもこの手で懲らしめなければ――と思っていたのですが」
「ふふっ。――じゃあ、すぐに見せてあげる。私が平和にした地球の姿をね」
「あらあら。言ってくれますわね。わたくしのいいところを掻っ攫うおつもりですか?」
「決まってるわ。だって、それが私の任務だもん」
笑い合う二人は、やがて互いに不敵な笑みを浮かべると――男らしさすら感じさせる眼差しを交わし、互いの拳を合わせた。必ず帰る、と約束するように。
そして――出港予定の時間を迎えたアウラが、黄色い声援を背に受けながらハッチを開けた時。
「じゃあねジリアン。アラン教官にもよろしく――」
「――アウラ。あなたの将来のために、親友として一つ忠告しておきますわ」
「……?」
突如ジリアンに声を掛けられ、何事かと首を傾げてしまった。その発言の意図が読めずにいる彼女を見遣り、ジリアンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「もし地球の殿方と恋に落ちた時は――その口調を改めることをお勧めしますわ。そんな乱暴な言葉遣いでは、いくら地球人が温厚でもその御心を射止めることは叶いませんもの」
「んなっ……!? な、ないわよそんなことっ!」
「さぁ、どうでしょう? かの宇宙刑事ボイサーも、地球人の美しい女性と子を成したとか……。ならば、その逆も……?」
「んもーっ! ないったらぁ! ジリアンのばかっ!」
そして投げ込まれた言葉の爆弾を受け、顔を真っ赤にしてしまう。今までの人生の中で、愛の告白を受けたことは数え切れないほどあるが――自分から告白するようなことを考えたことなど、一度もなかったのだ。
王室で暮らしていた頃に、様々な星の有力者から求婚された時も。訓練生時代に、同期や先輩の宇宙刑事から告白された時も。そんな気持ちにはなったことがなかった。
だからこそ、恋に落ちるという――未知の感情に、つい過剰に反応してしまうのである。そんな親友の初々しい姿を、ジリアンは微笑ましげに見守っていた。
そして彼女が別れ際に残したその言葉は……宇宙艇に乗り込み、大型宇宙船から出港してからも、暫し彼女の思考を支配していた。
(ま、全くもうジリアンったら……! こ、恋なんて……私が誰かを好きになるなんてっ……!)
地球人への確かな憧れ。親友の残した言葉。様々な要素が脳裏を渦巻く中、彼女を乗せた宇宙艇は、青い星へと飛び去って行く。
その中で彼女は、ある一つの想いを巡らせていた。
(……だけど、もし……本当に……そんな気持ちにさせてくれる人と出会えたなら……私は……)
その黒い瞳は、期待と不安の色を滲ませながら――前方で輝きを放つ星を映している。
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