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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十九話 雷鳴
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暇を持て余しているだろう。しかしあの無口な男が暇を持て余すと一体どうなるのか……、艦橋をうろうろと歩き回るのか、意外におしゃべりでも始めるのだろうか?

「クレメンツ提督」
「はっ」
想像に耽っていた俺を呼び戻したのはメルカッツ副司令長官の緊張した声だった。

「大変な事になった」
「?」
メルカッツ副司令長官の表情が険しい、何が有った?

「オーディンに向けて敵が進撃している!」
「!」
「司令長官が危ない!」


帝国暦 487年 12月13日  帝国軍病院  ユスティーナ・フォン・ミュッケンベルガー


最近私は一日おきに病院に来ている。元帥は少しずつだけど体調が良くなっているようだ。入院当初はベッドに横たわっている事が多かったけど今日は私と養父が来ると上半身を起して迎えてくれた。

「フロイライン、今日の外の天気は如何です。晴れていますか?」
「ええ、とても良い天気ですわ」
「そうですか、外に出られないのが残念ですね」

私が来る度に同じ会話が起きる。この部屋には窓が無い。帝国軍中央病院の特別室は地下五階にある。帝国の重要人物だけが収容される事から、暗殺等の危険を避けるために地下に用意された。真白な壁に明るい光、それだけなら地下に居るとは誰も思わない。

元帥はもう一週間以上も外に出ていない。外に出たいと思っているのだろう。宇宙艦隊のことも気になっているのかもしれない。本当なら宇宙艦隊を指揮して貴族連合軍と戦っているはずなのにこうして入院している。

貴族連合軍、ガイエスブルク要塞に篭る反乱者達に付けられた名前。でも正式名称じゃない、正式名称は反乱軍。それでは自由惑星同盟軍と区別が付かないから通称として貴族連合軍という名前が付けられた。

「そっけない名前ですね」
貴族連合軍の名前を聞いた時の元帥の苦笑交じりの感想だった。私もそう思う、そっけない名前だ。

先日養父は士官学校で講演をした。以前元帥から頼まれ士官学校で講演を行なったけれど随分と評判が良かったらしい。あれから時折、幼年学校、士官学校で講演を行なっている。

養父はそのことを元帥に話している。二人とも楽しそうだ。かつての司令長官と今の司令長官。現在の状況は決して楽観出来るようなものではない、そう思っているはずなのに何事も無いように話している。

さぞかし元帥はもどかしい思いをしているのだろう。それでも元帥は穏やかな表情をしている。いらだった表情を他者に見せる事は無い。私はこのままこんな穏やかな日が何時までも続けば良いと思いながら談笑する養父と元帥を見ていた。

「お話中申し訳ありません」
談笑を止める声が聞こえた。フィッツシモンズ中佐だった。中佐は緊張している。

「閣下、宇宙艦隊司令部より緊急連絡が入って
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