第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#6
呪縛の死線 玲瑞の晶姫VS漆黒の悪魔
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眠る彼女の儚い横顔にもう一日、あと一日だけ我慢しようと
気炎を抑えて今日に至る。
“嘗ての” 彼を識る者ならば、おおよそ理解し難い甲斐甲斐しさだった。
そんな世界の流れから外れた、豪奢な室内に流れる、ピアノの独奏。
部屋の一画に黒艶のグランドピアノが設置されているが、
無論弾く者は誰もいない。
その音はグリモアと共にカウンターへ放られた、
ネイビーブルーの携 帯 電 話から発せられていた。
本来フレイムヘイズには無用の産物であるが、
時代の流れを考慮し便宜上彼女が持ち合わせていたモノだった。
別れ際のあの時、彼の電話番号を聞くなり自分の番号を教えるなりしておけば
ここまで衰弊しなくともすんだのだろうが、
『恋』 に関しては無垢な生娘も同然の彼女には、
そんなコトすら思い至らなかった。
設定された着信メロディーも、彼が戯れにこの部屋で弾いた楽曲の前奏である。
「……」
電子データに変換された似て非なる音色を虚ろな瞳で流しながら、
彼女が電話に出る様子はない。
どうせ間違い電話か何かだろう、自分が一番声を聞きたい者からは
絶対にかかってこないのだから。
煩わしいと想いながら彼女はグラスの原液を飲み干し、
蓋が開いたままのボトルからまた無造作に注ぐ。
正直美味くもなんともなかったが、それでも飲まずにいられなかった。
頭の奥が鈍く暈やけるだけで、嬉しくも楽しくもなかった。
唐突に途切れる電子音、そして。
「ヘイヘイ、こちら眼につく徒はミナミナ殺しの “蹂躙の爪牙” マルコシアスと
現在一匹の男 に魂抜かれて奥の奥までぶらんぶらんの
我が停滞の戦姫、マージョリー・ドー。
安きメッセージがあんならオレサマの狂声の後にせいぜい残しな、
ギャーーーーーッハッッハッハッハッハッハアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!」
鼓膜を劈き防音機構の壁がなければ真っ先にホテルマンが飛び込んでくる程の
イカレタ笑い声だったが、それにも美女はただ一瞥しただけだった。
グリモアから伸びた鉤爪の脚がスマホを取り、
炎で構成された魔獣の頭部が通話口で牙を剥いて嗤っている。
「にしてもよ、オメーケータイなんて洒落たモン持ってたのかよ?
かけてくんのはいっつも公衆電話からだったろうがよ。
あ? 最近支給された? 誰に?
取りあえず番号教えとけよ、最近暇で暇で顕現でもしちまいそーでよ!
退屈は神をも殺すとはよく言ったもんだぜ、
ヒャーーーーーッハッハッハッハッハアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!」
「……」
会話の内容から “誰が” かけてきたのか類推した彼女は、
魔獣の脚からケータイを取りカウンターに伏したまま耳に当てる。
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