巻ノ六十 伊達政宗その七
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「必ず」
「そうせよというか」
「はい、そして」
「そしてか」
「治兵衛をです」
羽柴秀次、二人の姉の子であり甥である彼をというのだ。
「大事にされて下さい」
「あの者をか」
「はい、こう言っては何ですが捨丸は何時どうなるかわかりませぬ」
幼子は何時死ぬかわからないというのだ。
「それがしにも子がおりませぬし」
「いざという時はか」
「はい、治兵衛しかおりませぬ」
だからだというのだ。
「あの者を大事にされて下さい」
「そうせよというか」
「あれでそれなりの器の持ち主です」
秀次のその器量も見てだ、秀吉に話すのだった。
「政も軍もです」
「確かにそつがないな」
秀吉も認めることだった、このことは。
「小牧では遅れを取ったがな」
「あれは相手が悪うございました」
「竹千代殿だったからか」
「はい、徳川殿ならば負けても仕方がありませぬ」
秀吉と同じだけの名将と言われている彼にはというのだ。
「ですから」
「あれは仕方がないな」
「はい、むしろです」
「政も戦もそつなくこなせるからか」
「人も上手に使ったうえで。しかも人に慕われてもいますし」
「何かあればか」
「兄上の次に、そして」
秀長はさらに言った。
「一度決められたら」
「治兵衛をわしの次にか」
「絶対に変えられぬ様」
このことも念押しした、利休のことと同じ様に。
「もうないやもですが兄上にまたお子が出来ても」
「それでもか」
「はい、治兵衛に決めましたら」
「治兵衛で行くべきか」
「若し兄上が変えられるというのなら」
「その時はか」
「それがしが必ず止めまする」
やはり利休のことと同じくというのだ。
「治兵衛についても」
「そうか」
「茶々殿の」
秀吉の数多い側室の中でもとりわけ彼の寵愛が深い者だ、実は彼のかつての主織田信長の妹であるお市の方と浅井長政の間の長女だ。
「あの方についてもです」
「茶々もか」
「何があってもです」
「あ奴についてはか」
「勝手にはさせません」
絶対にというのだ。
「そうします」
「そうか」
「それがしは羽柴家の為ならです」
「そしてわしの為ならか」
「全てを賭けまする」
例え何でもするというのだ。
「兄上がご気分を害されても」
「そうか、では頼むぞ」
「それがしがそうしたことをしてもですか」
「御主ならいい」
秀吉は厳しいことをあえて言う弟にだ、笑って言った。
「それならな」
「そう言われますか」
「御主のことはよくわかっておる」
兄弟だけにというのだ。
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