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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十七話 新たな火種
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イフスはスクリーンを見ている。次第にガイエスブルク要塞を離れていく艦隊が。いや本当に見ているのだろうか、或いは別な何かを見ているのではないだろうか。そんな事を考えさせるような眼だった。

リッテンハイム侯もわしもただ黙ってスクリーンを見ているしかなかった。他の誰かが我等を見れば出撃する味方を見送っている、そんな風に思っただろう……。



司令室を離れて自室に戻るとそこには既に人が居た。
「伯父上、見送りですか」
「まあ、そんなところだ」

部屋に居たのは甥のシャイド男爵だった。皮肉そうな口調で話しかけてくる。
「よろしいのですかな、伯父上。シュターデン達がオーディンを攻略すれば、皇帝を擁し勅命を利用して好き勝手をしだしますぞ」

「或いは我等を裏切り自分達だけで栄達をと考えるかも知れぬ、卿はそう思っているようだな。卿もシュターデンもそう思っているなら愚かな事だな」
「?」

シャイドが訝しげな顔をした。
「分からぬか? 今回の内戦はこれまでの権力争いとは違うのだ。全てを持つ我等貴族対持たざる者達の戦いだ。たとえ勅命だろうと彼らが退く事は無い。退けば我等に叩き潰されるからな」
「……」

「シュターデン達がオーディンを占拠しても短期間で終わるだろう。メルカッツ率いる帝国軍本隊の手でシュターデン達は征伐されるに違いない。夢に酔うのもほんの僅かな時間だな」

「では、何故別働隊の出撃を許したのです? 悪戯に兵を失うだけでは有りませんか?」
幾分怒りを感じさせる口調だった。シャイドは少なくとも兵の大切さを知ってはいるようだ。

「ヴァレンシュタインが死ねばメルカッツとローエングラム伯の間で後継者争いが発生するだろうな」
「……」

「おそらくはメルカッツが勝つ、だが軍は、いや政府は混乱するはずだ。エーレンベルク、シュタインホフ、ヴァレンシュタイン、そしてリヒテンラーデ侯が死ぬのだからな。そうなれば或いは我等にも勝機が見えてくるかもしれぬ」
「……」

「別働隊がオーディンを攻略する可能性は決して高くは無い。いや、むしろ低いだろう。しかし僅かなりとも勝機を見出すための犠牲だと思えば決して無駄とは言えぬ。成功すれば十分に採算は取れる……」

たとえ失敗しても、何かにつけてグライフスに対抗意識を出すシュターデンなら軍の統率上はむしろプラスに働くだろう。シュターデンは失っても惜しくない駒なのだ。

「……伯父上、勝機と言われましたがこの戦い、それほどまでに危ういのですか?」
シャイドの表情は青褪めている。これだけの大軍だ、楽に勝てるとでも思ったのかもしれない。

「逃げ出すなら今のうちだぞ、シャイド。いずれ軍がこの要塞を取り囲むだろう。そうなっては逃げる事は出来ぬ」
「……」

ローエングラ
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