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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十六話 感傷との決別
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人の英雄が、その周囲に居る人間達が、人類の未来を宇宙の覇権を争う物語の世界だった。俺自身何度も彼らに感情移入しては喜び、哀しみ、楽しんで読んでいた世界だった。

小説の中のラインハルトは嫌いじゃなかった、未熟だなとは思ったが格好良さに憧れ、不器用な優しさに好感を持った……。キルヒアイス死後の彼の孤独には同情した、戦争好きなのには困ったものだと思ったが……。

異分子は俺のほうなのだ。最初はラインハルトに協力しようと思った。しかし出来なくなった、そして対立した。だからと言って排除できるだろうか? 出来はしない、出来るわけが無い。

それでは俺の知っている銀河英雄伝説の世界ではなくなってしまう。俺の知っている銀河英雄伝説の世界が消えてしまう、多分俺はそう思ったのだろう。だからラインハルトを排除できなかった……。

そろそろ現実を再認識すべきときだろう。この世界は俺の知っている銀河英雄伝説の世界とは別なのだと。そうでなければこの先へ進むのが危険になる。

俺はもう佐伯 隆二という一読者じゃない。帝国元帥、宇宙艦隊司令長官、エーリッヒ・ヴァレンシュタインなのだ。多くの人間に対して責任を持つ立場なのだ。前世の感傷などという愚かしいものに捕らわれるべきではない。

部屋を見渡すとレーナルト先生は居なかった。ヴァレリーだけが俺を気遣わしげに見ている。
「フィッツシモンズ中佐」
「何でしょう、元帥」
「少し一人にしてもらえませんか、考えたい事があるんです」

ヴァレリーはちょっと心配そうな顔をしたが何も言わずに部屋を出て行ってくれた。すまないな、ヴァレリー。本当は考えたい事なんて無い、ただ昔みたいにラインハルトになった想像をしてみたいんだ。そのくらいは今の俺にも許されて良いだろう……。






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