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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十六話 感傷との決別
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頭を下げる? 有り得ない事だ。そんな事を期待した事など俺は無い……。俺は首を横に振って答えた。

「そうか、ならば決着をつけるべきじゃな。これ以上伯を弄るのは止める事じゃ、何よりも伯自身が決着を付ける事を望んでいよう。どんな結末であろうともな」
「……でっち上げますか、証拠を」

俺の言葉にリヒテンラーデ侯は首を横に振って否定した。
「卿のところには伯の忠臣が居たの」
「……ジークフリード・キルヒアイス准将ですね」

「それを追い込んで暴発させる。餌は卿じゃの、ここまで事を引き伸ばしたつけじゃ。卿自身が払うと良かろう」
なるほど、今のキルヒアイスはラインハルトから離れ孤立している。暴発に追い込むのは難しくはないだろう。それにしても……。

「餌は私ですか、相変わらず酷い事だ」
「自業自得じゃ、皆を危険に晒したのじゃぞ」
「……」

確かにそうだ。俺がラインハルトをもっと早く押さえつけるか排除していれば、今回のクーデターは無かったかもしれない。俺が皆を危険に晒した……。

「卿は退院したら直ぐに出撃する事じゃの」
「フェザーンはどうします?」
「止むを得まい、こちらで対応する」
「……」

「卿は伯の忠臣と共に出撃せい。策はこちらで考える。卿は自分の身の安全だけを考えるのじゃな」
「……」

ラインハルトを排除すると言ったのだが、俺に任せると甘さが出るとでも思ったか、やれやれだな。退院は二週間後、そして出撃。レーナルト先生とヴァレリーは目を剥いて怒るだろう、厄介な事になった、どうやって説得するか……。


リヒテンラーデ侯が帰るとヴァレリーとレーナルト先生がやってきた。二人とも“絶対安静なのに”、“面会謝絶は守ってもらわないと”などとぼやいている。俺にも何か言っていたようだが、考え事をしていた俺は上の空で余り気にならなかった。

俺がラインハルトを追い詰めた、窮鼠にした。弄ったつもりは無い、しかしラインハルト達は弄られたと思った……。リヒテンラーデ侯の考えを俺は否定できるだろうか?

“卿はローエングラム伯には甘いの”
“あの男を殺したくないか”
“卿は妙な男じゃの、あの男の危険性を十分に承知しながらあの男を庇う。何故じゃ?”

リヒテンラーデ侯の言葉が蘇る。否定できなかった、何故甘いのだろう、何故殺したくないのだろう、何故庇うのだろう……。

分かっている。俺はあの男を殺したくない、いや殺してはいけないと思っていたのだ。だからあの男を排除しようと思っても理由をつけては先延ばしにした。

この世界は銀河英雄伝説の世界だ。いや、今となっては俺が変えてしまったから銀河英雄伝説の世界だったというべきかも知れない……。しかし元々はラインハルトとヤン・ウェンリーの世界なのだ。


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