蒼き君
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能の差をまざまざと見せつけられたっていうか……」
本当に短距離走は自分の中で唯一彼に勝てる私の自慢要素だったのだ。それをあっさりと打ち砕かれちゃったから、すぐに吹っ切ることはできない。くぅ……足がもっと早かったらなぁ……。
「なに、してるの?」
『おや美遊さん、奇遇ですねぇ』
ルビーの声に振り返ると、そこには言葉通りに美遊さんが立っていた。なにしてるのと聞かれましても、貴方に記録を抜かれて凹んでましたー、なんて情けなくて言えないし。黄昏てましたーなんて引かれちゃうかもしれない……なんとも無難な答えが見つからないと悩んでいると、彼女から声をかけてくれた。
「あなたは、どうして戦うの?」
どうして戦うのか、彼女からふと投げ掛けられた質問に、どうしてかどこか重く感じるオーラのようなものを感じた。
「え、っと……どうしてって、言われても……」
「あなたは自主的にではなく、そこのルビーに巻き込まれただけの一般人に見える。なのにどうして無理して戦うの?」
「それはルビーが……!」
「ルビーだって本気で言えば無理強いはしない、そんな風に見えるけど?」
一々刺さる正論が痛い。……これはもう、取り繕うのは無理なんじゃないかな。
「ほ、本当のことを言うと。憧れてたんだ、こういう状況に。ほら、こういうのってアニメや漫画の中だけかと思ってたから実際に会ってみたら思ったよりも動揺もなかったし、それになんだか楽しくなってきて――」
「――もういい」
それ以上の言葉を許さないと、重く鋭い一閃が話を断ち切る。呆けて彼女の瞳を見ると、その綺麗で夕日に煌めくオレンジには強い力がこもっているように見えた。
「その程度? そんな理由で戦うの? そんな気持ちで英霊に敵うと思っているの? そんな半端さじゃ、本当の彼を、■■を知ることはできない。まともに彼の役に立つとも思えない」
「――」
息をのんだ。どうして、どうして貴方が、彼を引き合いに出すの。美遊さんとアイツは昨日が初対面で、それ以前に会ったことないって、ずっと一緒にいた私が否定できるのにどうして美遊さんが彼を思っているの? 貴方がアイツの何を知っていると言うのだろうか。
「あなたは戦わなくていい。カード回収は全部私がやる。彼にもそう伝えて、二度と連れてこないで。そしてあなたは、せめて私の邪魔をしないで」
そうして彼女は去っていった。多くの矛盾と、解けきれない疑問を私のなかに植え付けて。
そんな状態で彼女と鉢合わせするのは、ほんの数分後の話。
嗚呼また、夜が来る。
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