第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第35話 笑顔にしたい
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、骨付き肉を差し出すのだった。
「騎士さん、いつも見回りお疲れ様。大変だよね、一生懸命なのに周りからは文句ばっかりで」
「……」
「それでも、みんなのために頑張ってくれるなんて、すっごくカッコイイよ。私、ホント尊敬してるんだ」
相手があのダタッツであると、知ってか知らずか。
天真爛漫な笑顔を浮かべて、ハンナは騎士を褒め称えた。白いフードに黒髪を隠した、帝国勇者に向けて。
「……よくわからないけど。今、いろいろ大変な時期なんだよね。町の人達、みんな噂してるよ。大切なお仕事のことだから、詳しいことは話せないんだろうし……私もなんて言って応援したらいいか、わかんないけど」
「……」
「――私達の笑顔を守るために、頑張ってくれてありがとう。それだけは、言ってもいいよね?」
フードの下から覗き込むように、上目遣いで騎士を見遣る少女は、困ったような笑顔で微笑みかけている。
微かに覗いている、黒髪を見つめて。
「騎士さんが、みんなを笑顔にしてくれるように――私も、騎士さんを笑顔にしたいから」
「……!」
「……それじゃあ、私もう行くね。騎士さんも、お仕事頑張って!」
そして、骨付き肉を胸当て付近に押し付け、半ば強引に手渡すと――太陽のような笑顔を輝かせながら、ルーケンの元へと帰っていった。
跳ねるように軽やかな足取りで去って行く、その後ろ姿を――ダタッツは無言のまま、見送っていた。
(俺が帝国勇者だと、気づかなかったのか……)
暖かな優しさに触れた喜び。純粋な彼女を騙すような形になってしまった罪悪感。それら全ての感情が、彼の胸中で渦巻き――フードの下で、唇を噛み締めていた。
やがて、彼の視線はハンナの背から、手渡された骨付き肉に移される。耐え難い香りが、鼻腔を擽ったのだ。
「……」
ダタッツは踵を返してこの場から立ち去りながら――本能のまま、その肉を口にする。
味覚を通して心に染み込む、肉の味と――そこに込められた、彼女の愛情が。痩せこけた青年の心を、満たして行く。
「……やっぱり、美味しいな……」
憂いを帯びたその素顔を見た者はいない。悲しみも喜びも、白のフードに覆い隠されているのだから。
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