第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第35話 笑顔にしたい
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「なぁに、これくらい手伝いのうちにも入らねぇよ。なぁハンナ!」
「うんっ! ほらみんな、これ食べてファイトファイト!」
「おおっ、今度は骨付き肉の塩焼きか! ハンナちゃんの味付けはやっぱり格別だぜ!」
「えへへ、店が直ったらお腹いっぱいになるまで食べさせるからね!」
「そりゃあ楽しみだ!」
不安など微塵も感じさせない、賑やかな建築現場。かつて城下町でも評判の料亭があったその場所では、活気に溢れた人々が揚々と再建に励んでいた。
作業に取り組む大工の中には、料亭の常連客だった男達の姿も伺える。そんな彼らを纏める壮年――ルーケンも。献身的に彼を支える少女――ハンナも。度重なる逆境にめげることなく、懸命にこの時代を生きていた。
(……そうだ。あの笑顔を守るために、俺は……)
そんな彼らの健気な姿を、ダタッツは遠巻きに見守っていた。彼らに差し入れを持ち込む町民が続々と現れていることから、その人望の厚さが窺い知れる。
「……おい、騎士団の連中がまたこっち見てるぜ」
その様子を見届けたダタッツが、立ち去ろうとした瞬間。翻された白マントが彼らの視界に入り、大工達の一人が声を上げた。
彼の声に応じるように、この場にいる人間の視線がダタッツに集中していく。その瞳は先程までの明るさが嘘のように、冷たい。
「けっ、さも自分達が守ってやってる、みたいなお高く止まったカッコしやがってよ。お前らが姫様より働いたことが一度でもあるのかっての」
「ローク君も不憫だぜ、あんな奴らや帝国勇者と一緒に仕事しなくちゃならないなんてよ」
「俺だったら絶対にごめんだね。あの子の頑張りには頭が下がるよ」
「帝国将軍のバルスレイ様だって、この国のために尽力して下さってんのにさ」
一度愚痴が始まってしまえば、もう止まることはない。彼らは口々に騎士団への不満を漏らし、フードで顔を隠したダタッツに冷酷な視線を注ぐ。
「……」
その責めに晒されながら、黒髪の騎士は甘んじてそれを受け止めていた。さも、それが当然であるかの如く。
「……」
「あんな奴らを見るな、ハンナ。誇りを無くした騎士ほど、見苦しい生き物はいねぇ。ルドルが生きていた頃は、気高く、強い騎士ばかりだったのによ……」
そんな彼を見つめるハンナを、ルーケンはどこかやさぐれた様子で嗜める。その目は遠い日を懐かしみ、今を嘆くような色を滲ませていた。
「……っ!」
「お、おいハンナ!」
だが。少女はそれでも、フードの騎士から視線を外さなかった。そればかりか大工達に渡していた骨付き肉を手に、迷うことなく騎士に駆け寄ったのである。
ルーケンの制止を耳にしても、その足が止まる気配はない。
やがて騎士の眼前に辿り着いた彼女は――満面の笑みで
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