第二章 追憶のアイアンソード
第32話 過去との決別
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動かせない。
そこまでして、竜正はようやく狂人達を無力化したのだ。常人ならば確実に死に至る打撃を、幾度となく繰り返して。
「や、やった……! やった、勝った! タツマサが勝ったんだ!」
「英雄だ、英雄の誕生だ!」
その苛烈な戦い振りを見守っていた村人達は、口々に竜正を称え、歓声を上げる。この戦いの異常さに、気付くこともなく。
「……穿ち過ぎ、だったな。後で、謝らねばなるまい」
戦いが始まる前までは半信半疑だった村長も、この結果を目の当たりにして、考えを改めようとしていた。
気にかかる部分はあるにしても、結果として竜正は狂人達を全員仕留めてくれた。ならば、これ以上疑ってかかるのは道理に反する。
村長はそう判断し、胸を撫で下ろして竜正に微笑む娘を見遣った。
(タツマサ君が、この村に根を下ろしてくれるなら……娘を託しても、いいかも知れん)
どのような道理があろうと、この世は強い者が正しく、弱者は悪となる。それは、王国が敗北した二年前の戦争が証明していた。
だが、これから帝国による弱肉強食の時代が始まったとしても。圧倒的な強さを持つ少年の力があれば、娘の幸せは守られるかも知れない。
(……?)
そんな仄かな期待を乗せて、村長は改めて少年の背を見つめる。――だが。少年の背は、震えていた。
今は寒さを感じる季節ではない。なのに――その背は、身を切るような寒さに凍えているようだった。
そんな彼の様子に、村長は首を傾げる。一体何が、彼の心を追い詰めているというのか。
(こんな……こんなことでしか、俺は……)
その答えは――少年の胸中に隠されていた。
自分の剣のせいで、心と人生を狂わされた犠牲者に、さらに鞭打つような攻撃を加える。そんな非道な行いでしか、今生きている人を守ることすらできない。
勇者としての在るべき姿から、ますます遠ざかって行く。王国の人々に償うはずが、さらに彼らを苦しめている。
そのジレンマは、竜正の精神を徐々に――そして確実に、追い詰めていた。
「こーなっちまえば、怖いものなしだ! こいつらめ、縛り上げてやろうぜ!」
「他の仲間達と一緒に、納屋の牢屋行きだ!」
「……みんな、もう大丈夫だ。あとは俺に任せて、下がっていてくれ」
「え……だ、だけどよ……」
「頼む……まだ、皆に危険が及ばないとは限らないんだ」
とにかく、今は一人になりたい。
その思いから、竜正は狂人達を縛り上げようと歩み寄る人々に釘を刺していた。再び暴れ出したら危ないから、という建前を使って。
そんな彼の心境など知る由もなく、村人達は竜正の言葉に素直に従った。戦闘について門外漢である彼らには、狂人達の脅威が完全に失われていることなど、わからないのだ。
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