第二章 追憶のアイアンソード
第32話 過去との決別
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ち上がった狂人達が彼に殺到した。
しかし、少年の眼に焦りはない。剣を手放した瞬間を狙われることも、織り込み済だったのだろう。
「……とぁあッ!」
自分と剣を結ぶ直線に、狂人達が集まる瞬間。竜正は柄に巻き付けたロープを一気に引き寄せ、木に刺さった銅の剣を解放した。
拘束から解き放たれた剣は弾かれたように、主人の元へと帰っていく。行く手を阻む狂人達を、切り裂きながら。
「ガァアッ!」
「ウギアッ!」
その矢継ぎ早の攻撃を目撃し、人々の視線が竜正に集中していく。いつしかパニックは収まり、村の誰もが竜正の戦いを見守っていた。
「す……すげぇ。話には聞いてたが……ほ、ほんとにつぇえんだな……!」
「タツマサの奴……あんなに強かったのかよ……!」
一方。二度に渡り強烈な斬撃を受け、狂人達は血だるまになって墜落していく。「普通の人間」であれば、間違いなく再起不能になっているところだ。
――だが。痛みは彼らを止める抑止力にはなりえない。もがき苦しみながら、なおも立ち上がろうとする。なおも、暴れようとする。
(肉体の痛みでも止まらないほどに……彼らは……)
痛みにも勝る「恐怖」に突き動かされ、狂人達は身を起こして行く。それほどまでに彼らを狂わせた自分の手を見遣り、竜正は眉を顰めた。
「オゥ、ァアガ……!」
「ガァゥ、ア……ォオゥ……」
これ以上無理に戦い続ければ、間違いなく命に関わる。だが、それでも彼らは立ち上がった。
自分の脳裏に焼き付いた恐怖から、逃れるために。この苦しみから、脱するために。
彼らは指先を震わせながら剣を拾い……デタラメな剣閃を描きながら、がむしゃらに斬りかかって行く。
「……いいだろう!? もう、十分だろう
!?」
その光景を前に――竜正は、今にも泣きそうな表情で剣を振り上げた。少年の一閃に打ち倒されて行く狂人達の姿が、悲しみに暮れた瞳に映されていく。
「誰一人……ここを通るなァッ!」
圧倒的でありながら、どこか痛ましい彼の姿に、人々は言葉を失った。歓声を送るべきなのに――かける言葉が見つからないのだ。
「タツマサ、くん……?」
竜正の横顔を見つめるベルタも、彼の異様な様子に疑問を抱いていた。ただいたずらに傷付けることを嫌っている――とは思えないほどに、その表情は暗い。
まるで、彼らと戦うこと自体を忌避しているようだった。
――そして。戦いが始まり、半刻が過ぎた頃。
竜正の足元には、動けなくなるまで痛めつけられた狂人達の肢体が投げ出されていた。
「……」
いくら痛みを与えても止まらないとはいえ、身体を動かすには正常な骨格と筋肉が必要だ。それらを破壊されては、いかに狂人といえど指先一つ
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