第二章 追憶のアイアンソード
第31話 少女の涙
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ミングで村に……!? と、思考を巡らせた竜正は、咄嗟に目の色を変えて立ち上がる。
が。
湯煙を越えて現れた人影の正体は、竜正の予測を遥かに越えていた。
「あっ……」
「え……?」
竜正の目の前に現れたのは職場の先輩でもなければ、狂気に囚われた騎士でもない。
タオル一枚に色白の肢体を隠した、亜麻色の髪の美少女――ベルタの姿だったのである。
「な、なっ……」
女性の使用時間はとうに過ぎている。生まれも育ちもこの村である彼女が、それを知らないはずがない。
にもかかわらず、なぜ彼女がここにいるのか。その答えが見出せず、竜正は混乱する。
「……」
一方。ベルタも頬を赤らめ、恥じらうような表情で竜正を見つめていた。
その微熱を帯びた視線は、竜正の――ある部分へ向かっている。
「うっ!」
彼女の視線を追い、自分が裸のまま浴場から立ち上がっていることを思い出した竜正は、慌てて座り込む。激しい水飛沫が、彼の動揺を物語っていた。
そんな彼の様子を見遣りながら、ベルタはゆっくりと白い爪先から湯船に浸かり、竜正の側へ寄り添って行く。その白い肩が、少年の傷だらけの肩に触れるまで。
「……どうしたんだ。営業時間を知らない君じゃないだろう」
それから僅かな間を置き、冷静さを少しだけ取り戻した竜正が口を開く。村一番の器量と言われる彼女の柔肌を前にしたためか、その声は僅かに上ずっているようだった。
「……ごめんね。来ていい時間じゃないのは知ってたけど……番台さんに無理言って、通してもらったの」
「なんで、また」
「……ここにいれば、安心かな、って」
「――そう、か」
ばつが悪そうにそう答えるベルタの言葉を受け、竜正は深く追及することなく彼女から視線を外す。正確には、彼女の胸元から。
――昨夜の戦いで男達の大半は仕留めたが、彼らの生き残りは今もこの近辺に潜んでいる。
村人達にとっては、身に迫る危険は今も続いているのだ。
母を失った痛みは、時間が解決してくれるかも知れない。しかし、今自分達に近付いている危難は、時間が過ぎたところでどうにかなるものではない。
諸悪の根源が断たれるまで、永遠に続く苦しみなのだ。
肉親を亡くした苦しみに苛まれながらも、それだけに囚われず現状に気づいたから、彼女はここに来たのだろう。
少なくとも竜正のそばにいれば、殺されることはないのだから。
(……すまない、ベルタ)
彼女の短い言葉からそれを察した竜正は、自分の行いのせいで、好きでもない男と肌を寄せ合うことになった彼女の境遇に胸を痛めた。
自分が死ねば、父は独りになってしまう。それだけは避けねばという想いが、彼女をここへ誘ったのだろう。
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