第二章 追憶のアイアンソード
第28話 帝国勇者の最期
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
兵達は、その瞬間を呆然とした表情で見送るしかなかった。
そして、この場に訪れた静けさを前に――ようやく彼らは我に返り、事の重大さを悟るのだった。
「……おい。どうするんだ。勇者様が、崖に……!」
「と、とにかくバルスレイ将軍に知らせろ! 早く!」
大声を上げて喚き散らしながら、帝国兵達はその場から走り去って行く。一方、崖下に広がる闇の中では――
「……ぐ、ううっ……」
――死に損なった少年の、すすり泣く声が響いていた。
暗い闇に支配された、深き地の底。その中で生きる少年の腕には――墜落の衝撃により、粉々に体を砕かれたルドルの首が、抱かれている。
あの崖から落ちていながら、勇者と呼ばれる少年は生き延びていたのだ。ルドルの方は、当然の結末を迎えているにも拘らず。
「なんでだよ……どうしてなんだ……!」
少年は――帝国勇者「伊達竜正」は、この戦いで死ぬはずだった。自ら、そう望んでいたのだ。
だから、ルドルの殺気に気づいていながら知らぬ振りをして、より確実に自分が殺されるために、崖の近くにも立った。
だが、結果はこの有様。私利私欲のために多くの命を奪った自分が生き残り、愛する家族のため、命を賭したルドルが死んだ。
こんな馬鹿なことがあるか。こんな不条理な話があるか。自分は、死んで罪を償うことすら、許されないのか。
仇を討たせることも出来ないのか。
そう絶望する竜正は、誰もいないこの闇の中で、ひたすら泣き言を吐き出し続けていた。日が暮れても夜が明けても、掃討戦が終わっても。
竜正の嗚咽は絶えることなく、この闇に響き続けていた。
(死ぬことすら許されないなら……俺は……)
やがて。竜正は憔悴し切った表情で、片手にルドルの首を抱いたまま――地面に突き立てられていた銅の剣に手を伸ばす。
(せめて……今、生きている人を守るしか、ない。この剣と、勇者の力で……!)
その柄を握る瞬間。
竜正の、長い旅が始まるのであった。
勇者の剣をルドルの墓標として、この地に残したまま……。
そして――それから三ヶ月後。竜正の捜索は打ち切られ、世間では勇者の戦死が報じられていた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ