第二章 追憶のアイアンソード
第26話 父の面影
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「現象」へと変えていく。
竜正の胸に募る痛みは、勇者の剣の刀身から放たれる暗雲となり、この荒野を覆い尽くしてしまった。
心の闇というものを象徴するかのような禍々しさを持つ、その雲は……瞬く間に空へ広がり、全ての兵士がその悍ましさを感じ取る。
人間の本能に訴えかける、その異様な空気は――理性を失いかけた帝国兵達ですら、手を止めるほどの圧力を持っていた。
「……あ、あぁ」
竜正はその光景と空を見上げ、悟る。
これは、自分が生んだ雲。自分が抱えてきた闇と、罪の全てなのだと。
――自分という人間は、これほどまでに醜いのだと。
目に見える形でそれを思い知らされた少年は、やっとの思いで身を起こしても、立ち上がることが出来ずにいた。自分の罪深さを、我に返った今になって、知ってしまったのだから。
「――我が軍の勇者が、敵将アイラックスを討ち取った! この戦いは我々の勝利である! 双方、武器を収めよ! これ以上、この地をいたずらに血で汚すことは許さんッ!」
一方、バルスレイはこの現象により兵達の勢いが削がれたことを感じ取り、すぐさま怒号を上げる。その声は暗雲に気を取られていた帝国兵達の耳に突き刺さり、彼らの意識を現実へと引き戻した。
「……」
そんな彼らを一瞥しつつ、竜正は倒れたまま動かないアイラックスへと視線を移す。微かに胸が上下に動いていることから、まだ生きていることが伺えた。
自分を救うと。血に汚れた自分を救うと言った、彼。
ふと、そんな彼の言葉を思い起こした竜正は、ふらつきながらも立ち上がると……身を引きずるように、彼のそばへと歩み寄って行く。
そして、彼の顔が見えたところで、力尽きたように両膝を着いた時――彼が、笑っていることに気づいた。
「……や、はりな」
「え……」
優しい眼差し。温もりに溢れた笑顔。
そんなものが罪を重ねた自分に――それも、こんな場所で。向けられるなんて。
ありえない。これは夢だ、きっと夢だ。
父さんが、こんな俺を……愛してくれるなんて、嘘だ。
――そう、心の中で叫ぶ竜正に、アイラックスはまるで我が子に注ぐような眼差しを送っている。
自分の命を対価に、息子を守った竜正の父と――全く同じ笑顔で。
「君は、悪魔などでは、ない。血が流れることを悲しむ気持ちがある、人間だ……。ルークはああ言ったが……やはり、君は……違う」
「……」
アイラックスは己の血に染められた手を、震えながら竜正へと伸ばして行く。その指先は、知らぬ間に頬を撫でていた少年の涙を、優しく拭っていた。
「君が悪魔ならば。悪の勇者だと言うならば……涙など、流せまい。彼らを、止めることもできまい。君は紛れもな、く……」
「……!」
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