暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第26話 父の面影
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 決闘の行く末を見つめ、バルスレイも安堵の声を漏らす。その瞳には、命を賭して戦場を駆け抜け、ついに戦争を終結へ導いた少年の姿が映されていた。

 ――だが。

「我が帝国に歯向かった愚か者どもが、死を以て償え!」
「俺のダチの仇だ、死ねぇ!」

 戦いは終わっているのに。剣を振るう音も人々の悲鳴も、途絶えてはいない。
 この長い戦乱で、幾つもの大切なものを失ってきた帝国兵達は……士気を失い、戦えなくなった王国兵を猛襲したのだ。

 白旗など上げさせない。徹底的に皆殺しにしてやる。
 そんなどす黒い憎しみが、この戦場――否、戦場だった荒野に蔓延していた。

 今、この場で繰り広げられているのは戦いではない。一方的な――蹂躙である。

「やめろ、やめぬか! 剣を収めよ、もう戦いは終わったのだぞ!」

 その憎悪が生む負の力は、バルスレイの叫びを以ってしても抑えることは叶わなかった。帝国兵は次々と王国兵を嬲り殺しにしていく。
 さらに女性兵は、鎧を脱がされ辱めを受けていた。長い遠征と戦いで疲れ果てた帝国兵達には、もはや真っ当な理性など残されていないのだ。

「やめ、ろ……やめろ……!」

 喋ることも叶わぬまま、悲痛な面持ちでその光景を見つめるアイラックス。そんな彼の視線を辿ることで、竜正はようやく状況を理解するのだった。

 だが、無理を重ねた身体は言うことを聞かず、竜正は立ち上がることもできずにいた。
 それでもなお、彼は戦いを止めようとしていた。――そう。血に飢えた狂戦士だったはずの彼が、この惨劇を止めようとしていたのだ。

 勇者の剣でも抑え切れないほどに罪悪感が溢れてきた頃に、剣が手元から離れたことで、本来の自我が強く前面に出るようになったためだ。
 今の彼は、極めて素の「伊達竜正」に近い状態にある。

「やめろ、やめろ、やめろ! やめるん、だぁあぁあぁああッ!」

 竜正はひたすら叫び、帝国兵達を止めようとする。が、帝国兵達はまるで聞く耳を持たず、無力と化した王国兵を次々と蹂躙していった。

(やめろ……もう、やめてくれ……!)

 自分と共に戦い、同じ釜の飯を食い、背を預け合って生きてきた仲間達が、暴虐の限りを尽くしている事実。そんな彼らを止められない無力感。
 その全てが一つになり、竜正の心を飲み込んで行く――。

(お願いだ……どうか……もう……!)

 ――それは、勇者の剣が増幅しうる負の感情の一つ。

「……やめてくれぇえぇえぇええッ!」

 人が「悲しみ」と名付けたその感情は、持ち主の心を通して勇者の剣へと繋がっていく。

『……カナシイカ。カナシイカ。オマエノセイデモ、カナシイカ』

 勇者の剣は、そんな彼の心を抉りながら。彼の胸中を、
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