第二章 追憶のアイアンソード
第26話 父の面影
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たアイラックスの重心は、一気に後ろへと引っ張られて行く。その衝撃を受け、仰け反るアイラックスは完全に無防備となってしまった。
「はぁあぁあああッ!」
その一瞬に、勝機を望み。
竜正は痛みを押し殺し雄叫びを上げ、アイラックス目掛けて突進していく。螺剣風の反動で跳ね返り、空高く舞う勇者の剣を、「左手」でキャッチしながら。
だが、すでにアイラックスも迎撃の体勢に入ろうとしている。一瞬で柄を握り直し、弐之断不要の構えを取る彼の瞳には、自分に急接近してくる竜正の姿が映されていた。
螺剣風で右腕を痛めた竜正には、もう左手しか残されていない。だが、不慣れな左手での飛剣風では、正確な狙いなど不可能。
だから竜正は、博打に出ているのだ。ゼロ距離射程の飛剣風で、勝利を掴むために。
「ぬっ、う――あぁああぁあぁッ!」
「く……ぉぉおぉおぉああぁあッ!」
けたたましい叫びと共に、アイラックスの大剣が振り下ろされて行く。同時に、竜正は左の腰に勇者の剣を引き付け――飛剣風を放つ。
だが――その刀身に纏わりつく二角獣の幻影からは……まるで憑き物が落ちていくかのように、一本の角が霧散しつつあった。
そして。
二角獣が……一角獣に成り果てる時。
双方の決死の一撃は、互いを打ち倒してしまう。
しかし。
相討ちにも見えるその一瞬で、勝敗は決していたのだ。
「う……う」
竜正は地に倒れ伏したまま動けず、左肩を痙攣させながら苦悶の声をあげている。だが、その身に大剣で切り裂かれた痕はない。
一方。仰向けに倒れ、空を見上げるアイラックスの胸には――勇者の剣が、墓標のように突き立てられていた。
――あの一瞬。
竜正は、弐之断不要より先に飛剣風をアイラックスの胸へ叩き込んでいた。しかし、その直後に弐之断不要を放とうとしたアイラックスの腕が、上段から竜正の左肩を打ち抜いていたのだ。
圧倒的に体格で勝るアイラックスの拳を、小さな身体に受けてしまえば、もうまともに動くことはできない。
「……!」
両腕がまともに動かない状態のまま、竜正は身をよじり前方を見遣り――ようやく、決着が付いていることを悟るのだった。
そして――この結末を見届けた兵達は、確信する。帝国の勝利を。王国の敗北を。
「勝った……勇者様が勝ったぞ! 我が帝国が勝ったんだ! もはや恐れるものなどないッ!」
「アイラックス将軍が……そんな……!」
帝国軍は歓喜の声を上げ、王国軍は悲嘆と共に剣を落とす。降伏の意思を問うまでもなく、この戦には決着が付いていた。
アイラックスの敗北を目撃した瞬間、王国軍の兵達は、崩れ落ちるように戦意を失っていたのだから。
「タツマサ……」
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