第二章 追憶のアイアンソード
第26話 父の面影
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んな彼の緊迫した表情を前に、アイラックスも目の色を変えた。
(何か策があるのか……あるいは、覚悟を決めたか。何にせよ、あの剣を捉えることができなくば、私に勝機はない。こちらはただ、全力で迎え撃つのみだ)
竜正の出方を伺いつつ、大剣を握る手に力を込める。風が吹き抜け、足元の砂が空へさらわれても、その身はびくともしない。
双方が石像のように固まったまま、時間ばかりが過ぎて行く。互いに睨み合う中、兵士達だけは絶えず戦いに明け暮れていた。
まるで、その空間だけが時空から切り離されているかのように。
螺剣風か。弐之断不要か。
雌雄を決する一瞬が近づく中、竜正の脳裏に――ふと、母の姿が過る。
この戦いを越えた先にあるものを、想像したからだ。
(母さんは……受け入れてくれるだろうか。血に汚れた俺の手を――握ってくれるだろうか)
未来を夢想した先に待ち受ける、不安。そんなものを抱えて戦えば、足元を掬われるとわかっていても……考えずにはいられなかった。
(いや……考えるのは、やめだ。帰れる日が来れば、きっと答えは見つかるはず。戦争が終わらなくちゃ、帰ることも出来ないんだ。――今はただ、戦おう。戦って、帰ろう。今はたぶん、それでいい)
そうして、自分なりに折り合いを付けるまでは。
(迷いは――振り切れたか)
そんな彼の様子を静かに見つめていたアイラックスは、竜正の眼の色を見て、戦うことへの最後の迷いが失われたことを悟る。
剣を捨てられなかった少年の決断に胸を痛めながらも、それを決して表情には出さず――彼はゆっくりと大剣を握る手に力を込める。
少年自身が引き返す道を断ち切った以上、もはや戦いを回避する術はない。
武力を以て、傷と罪に塗れた少年の戦いを終わらせる。それが、アイラックスの決断であった。
「これで――最後だ」
そして。
彼の呟きを、合図とするかのように。
「――ぁああぁああぁあッ!」
「――おぉおおぉおおぉおッ!」
互いの足元から、破裂するように砂埃が吹き上がる。
螺剣風が巻き起こす竜巻が。弐之断不要が生む風圧が。地面の砂を舞い上げて行く。
弓矢を凌駕する早さと、槍を超える鋭さで、勇者の剣は螺旋を描いてアイラックスの大剣へ向かっていく。
(狙いは――私の剣か!)
眉間でも心臓でもない。
人体の急所からは明らかに外れた狙いに、意表を突かれたアイラックスは、弐之断不要を放つタイミングを僅かに外してしまった。
本来ならば確実に螺剣風を撃ち落とせる瞬間を外され――大剣の一閃に重量の勢いが乗る前に、螺剣風の一撃が巨大な刀身に命中してしまう。
「う……ぬ!」
体重が前方に乗る前に、後方へ大剣を弾かれ
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