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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十五話 暗い悦び
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は一時かなり危険な状態になったのです」

ヴァレリーが真顔で頷いている。やはり俺はかなり危ない状態だったらしい。やばいな、後でヴァレリーがまた怒るだろう。どうやって逃げるか……。
「折角ですからゆっくりと休まれるとよろしいでしょう。傷だけではなく体力も回復される事です。周りに心配をかけるのは良くありませんよ」

先生の青い目がこっちを心配そうな目で見ている。俺は黙って頷いた。母さんも良くそんな目をした。決まって俺が体調を崩したときだった……。あの目を見るのは辛かった事を覚えている。この内乱の時期に大人しく休めるかどうかは分からない。だからと言って”そんなの出来ません“などと言って先生を悲しませる事は無いだろう、ヴァレリーを怒らせる事も無い。俺は素直で良い子なのだ。

「何か質問は有りますか?」
「……ここは?」
声を出すとやはり胸が痛む。自然と囁くような声になった。

「ここは帝国軍中央病院です」
「退院は何時?」
「二週間は安静にしてください」

二週間か、自宅療養も入れれば三週間といった所か、先ず無理だな、内心で溜息が出た。先生には悪いが三週間も遊んでいる暇は無いだろう。

女医さんが帰った後、俺はヴァレリーにリヒテンラーデ侯、エーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥に俺が目覚めた事を知らせるようにと言うと、昨日目覚めたときに知らせたという事だった。

昨日? 俺自身には記憶がない。いや、大体何日意識が無かったのだろう。ヴァレリーに聞いてみると丸三日意識が無かったようだ。確かに俺は危険な状態に有ったらしい、今更ながらその事に実感が湧いた。

俺はヴァレリーにヴァレンシュタインは意識もしっかりしていると伝えてくれと再度頼んだ、それからキスリングを呼んでくれと。ヴァレリーは余り納得した表情ではなかった。ちょっと不満そうだったが、それでも言う通りにしてくれた。

キスリングが来たのは三十分後だった。頼むからもう少し早く来い。この三十分、俺がどれ程辛かったか分かるか? ヴァレリーに嫌というほど説教をされた。“夜は早く寝なさい”、“食事はちゃんと取りなさい”、俺はヴァレリーの子供か? いつか“ママァー”と呼んで絶句させてやる。俺は正直で良い子なのだ。

キスリングはかなり憔悴していた。俺の顔を痛ましそうな表情で見る。しょうがない奴だ、自分の所為だと思っているのだろう。
「エーリッヒ、済まん、油断した」

案の定だ。俺は手を伸ばした、キスリングは俺の手を見ていたが躊躇いがちに俺の手を握った。軽く手に力を入れる。俺達にはそれだけで十分だ。ヴァレリーに席をはずしてくれるように頼んだ。
「何が起きた?」

「クーデターだ」
やはりそうか、俺はキスリングに頷いた。それを合図にキスリングが苦い表情であの日何が起きた
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