第一章 邂逅のブロンズソード
第11話 離れていく心
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分を捨て、ただの旅人になった、と?」
「……そうなります」
「わかりました。ならばわたくしも、『ただの旅人』としてのあなたを相手に、話をさせて頂きます」
「えっ……!?」
ダイアン姫の冷たい氷のような声色に、ダタッツは言い知れぬ恐怖を感じ――目を見張る。彼女の近くに立っていたルーケンとハンナも、その恐怖を間近で体感していた。
「ただの旅人の、ダタッツ様。ダイアン王女の名において――あなたの腕を見込み、王国騎士団の予備団員として推薦させて頂きますわ」
「一国の王女」が「流浪の旅人」を、予備とはいえ騎士として推薦する。本来ならば異例の状況であり、根無し草の旅人が手にできる最高の栄誉であるはずのその交渉は――凍てつくような冷たい空気の中で行われていた。
「ひ、姫様、本気ですか!? だってこの男は……!」
「過去はどうあれ、ここにいるダタッツ様はただの旅人です。それに腕の立つ人間を一人でも多く取り立てることは、騎士団が萎縮している我が王国の急務」
「し、しかし……!」
「――それに。ダタッツ様の用事は終わっても、わたくしの用事は終わっておりませんので」
ダタッツを警戒するルーケンに対し、にこやかに語るダイアン姫。しかし、その瞳は――氷のように冷ややかで、氷柱のように鋭い。口元のような緩みの色は、まるでない。
その歪さが、ルーケンを黙らせ――ダタッツを戦慄させていた。三十センチ近い体格差を物ともせず、真っ向から自分を見据えるダイアン姫の眼光に当てられ、ダタッツはえもいわれぬ威圧感を覚えるのだった。
「もちろん、引き受けて頂けますわね? ダタッツ様」
「いえ、ジブンは……」
「引き受けて、頂けますわね? 帝国勇者などとは違う、ただの旅人のダタッツ様」
選択の余地など与えない、と言わんばかりであった。炎の如き激しさと、吹雪の如き冷たさを兼ね備えた彼女の怒気は、帝国勇者さえ黙らせる勢いを持っていたのだ。
帝国勇者が無所属である今、その力を王国の手元に置けるチャンスがあるなら活用すべき。そんな打算を口実に、彼女は己の怒りを眼前の旅人にぶつけようとしていた。
それは、彼女なりの「復讐」だったのかも知れない。
「……わかり、ました。謹んで、拝命致します」
「……ええ、ありがとうございます」
だが、帝国勇者として王国を苦しめていたダタッツには、それに逆らえない負い目がある。ゆえに彼は彼女の胸中を悟ってなお、従う道を選ぶのだった。
「……とんでもないことに、なったものだ」
去り行くダタッツを引き留め、あまつさえ騎士団に引き入れてしまったダイアン姫の眼力。
その威力を目の当たりにしたバルスレイは、ため息まじりに――肩を落とす「帝国勇者」を見遣るのだった。
「……」
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