第一章 邂逅のブロンズソード
第11話 離れていく心
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「ジブンに出来ることはここまでです。今の王国に友好的と知られているあなたが来た以上、ジブンはもう必要ありません。ここに居ても、いたずらに町のみんなを怖がらせてしまうだけです」
「――それで、今度はどこに行くつもりだ。皇女殿下は、今もお前を想い続けておられるのだぞ」
「――ここではない、どこかです。今は、それだけしかわかりません」
引き留めるように声を掛けるバルスレイに対し、ダタッツは振り向くことなく歩みを進めて行く。「自分を想う人がいる」という言葉に一瞬だけ止まった足も、数秒だけの間を置いて再び動き出していた。
だが。
「待ってくださいッ!」
ダイアン姫の叫びが、ダタッツの動きを止める。
彼女の叫びに反応して思わず振り返る彼の目には、ルーケンの肩から離れ、ふらつきながらも両の足で立ち上がる姫騎士の姿が映し出されていた。
「……ダイアン姫……!?」
「なぜ、なのですか。わたくし達を苦しめ、母上を! ロークの父上を! アイラックス将軍を! 王国の人々を奪ったあなたが! なぜ、今になってわたくし達を助けるのですか! なぜ、『帝国勇者』が――わたくし達を救って下さった、あなたなのですかッ!」
ダイアン姫はいつになく興奮した様子で、畳み掛けるように声を張り上げて行く。その表情は怒り以上に――悲しみに溢れていた。
おとぎ話の王子様のように颯爽と駆けつけ、華麗な技で窮地を救う美男の剣士。それは本来ならば、女としての心を焦がし――淡い恋さえ抱かせてしまうような存在。
しかしその実態は、自分達から全てを奪った「帝国勇者」だった。その受け入れがたい事実が、ダイアン姫の中に負の感情を芽生えさせているのだ。
その責め立てるような言葉の波を浴びて、ダタッツは逡巡するように僅かに目をそらし――
「王国と戦う理由を失ったから、ですよ」
――絞り出すような声で、小さく呟くのだった。追い詰められた人間が吐き出す、真実の言葉として。
(そんな……そんな一言で、わたくし達をこんなにも惑わせて……ッ!)
その言葉を受け、ダイアン姫は桜色の唇を強く噛み締める。彼女の中で渦巻く、帝国勇者への怒りは――憎しみとは異なる色を滲ませていた。
彼に救われた恩があるからこそ。自分達のために戦った彼の勇姿に、一時でも惹かれた自分がいたからこそ。彼が帝国勇者であることが、許せなかったのだ。
(許せない……! あなたが「帝国勇者」でさえなければ、ただの「帝国出身の剣士」でしかなかったなら……こんなに苦しい気持ちにもならなかった! あなたに、もっと素直に、ありがとうと言えた!)
そして、彼女の王女として――女としての怒りは。ある方向へと向かっていくのだった。
「……そうですか。だから帝国の身
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