第一章 邂逅のブロンズソード
第3話 城下町の料亭
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いのです。確かに、夜の見回りまで王女のわたくしが務めているというのは、旅のお方からご覧になれば不自然でしょうし」
「夜の見回り、でありますか……」
「はい。騎士団の方も、日頃から巡回や訓練はされておられるのですが……どうも、帝国軍の駐屯兵と接触するのを避けてばかりいるようで。今彼らが問題を起こした場合、諌められるのはわたくしだけ、という状態なのです」
「噂では、あのアイラックス将軍の御息女もたいそう勇敢なお方であると……」
「……ええ。ヴィクトリアはわたくしの剣の師匠でもありました。今は帝国まで出稽古に赴いていますが、じきにこちらへ帰って来ることでしょう」
遠い場所を見つめるように、ダイアン姫はダタッツから視線を外す。
――つまり。王国の騎士団が萎縮している今、帝国軍の乱暴を抑えることが出来るのは彼女と、ヴィクトリアと呼ばれる女騎士だけなのだ。
ダイアン姫自身もそれを深く承知しているからこそ、夜の見回りから抜けられないのだろう。
「そうだったのですか……それであなた様が、お一人でこんな夜更けまで。――おいたわしや」
「いいえ。わたくしはあくまで、王女という立場にものを言わせているに過ぎません。真に実力で彼らを抑えているのは、実質的にはヴィクトリア一人なのです」
「なんと……」
「そこで……あなた方に今後のことを忠告するべく、今宵こちらへ参ったのです」
「忠告、ですと?」
「はい」
そこで一度言葉を切り――ダイアン姫は薄い桜色の唇を、きゅっと結ぶ。その眼差しは沈痛な色を湛え、この料亭にいる三人を見回していた。
「……この辺りを巡回している帝国兵には、法はおろか人としての矜持すら守らない人間が数多く居ます。昼の件で、あなた方が目を付けられてしまった可能性もあるでしょう」
「……!」
「わたくしも乱暴などさせないよう、今以上に目を光らせるつもりですが――あなた方も、どうかお気を付けて。特にダタッツ様は、明確に帝国兵と対峙してしまわれたようですから……」
「――わかりました。ダイアン姫も、どうか無理をなさらないよう……」
「ありがとうございます」
帝国兵の横暴について警告しているダイアン姫の表情は、身を斬られたかのように痛ましい。
自分一人では、守りたいものも守れない。ご安心ください、と言い切ることもできない。気を付けてと、忠告することしかできない。
その悔しさが、彼女の顔色から滲み出ているようだった。
それを察してか、ダタッツは労うように言葉を掛けて頭を下げる。彼の礼を見つめていたダイアン姫は、その言葉を受けてようやく元の凛々しい表情に立ち戻るのだった。
「十日後には、またババルオ様主催の親善試合が行われます。わたくしがそれに勝利した時は――もう一度、ここに立ち寄らせて頂き
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