暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第一章 邂逅のブロンズソード
第1話 帝国勇者
[3/4]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
 一方、帝国勇者と呼ばれる少年は何一つ語ることなく――ルークの気勢に怯むこともなく。ただ静かに、剣を構えていた。

(さぁ……貴様の剣を見せてみろ。この命、ただで貴様には――!)

 そして、間合いを詰めたルークが、手にした両刃剣を振り上げた瞬間。

 彼の胸を――片刃の剣が、貫いていた。

 主の手元から打ち放たれたその剣は、二角獣(バイコン)の幻影を纏い――ルークの鎧ごと彼を貫通し、馬上から転落させてしまう。
 その衝撃音が、静かになった戦場のただ中に虚しく響き渡っていた。

(――に、が、起きた。何が、起きたのだ。私は、なぜ……どのような技で……!?)

 遠のいて行く意識の中で、ルークは己の敗因を模索する。あまりにも一瞬の出来事ゆえ、自分が死んでいく理由さえ掴めない。
 その悔しさが目元に貯ろうとしていた時。ようやく彼は、胸に突き立てられた勇者の剣に気づくのだった。

(そうか、奴は……恐るべき速さで、己の剣を投げ付けたのか……。剣士の半身たる剣を投げるなど、やはり貴様は勇者失格よ……)

 自分が気づけたなら、アイラックスにも見えていたはず。その希望的観測に胸を撫で下ろすルークは、静かに目を閉じて行く。

(ああ……ロークよ。せめてお前だけは、幸せを……)

 そんな彼が最期に想い浮かべたのは、幼い我が子であった。父として、騎士として生きた彼の戦いは、その瞬間に――ようやく、終わりを迎える。

「ルーク……!」

 その最期を見届けたアイラックスは、暫し目を閉じ――静寂に包まれた戦場の中で、黙祷を捧げる。
 そして――僅かな時を経て、再びその眼が開かれた時。アイラックスの瞳には、燃え滾るような闘志が宿っていた。
 ルークの命と引き換えに、帝国勇者の技を、己の眼に刻みつけて。

「遥か昔の帝国騎士が、空を舞う魔王の手先と戦うために編み出したという、伝説の対空剣術――『帝国式投剣術(ていこくしきとうけんじゅつ)』。数十年前に帝国から入手した古文書に記されていたが、まさか実在していたとはな」
「……」
「――ルークの命が、私にそれを教えてくれた。彼と同じ父親として……王国軍人として。私はなんとしてもそれに応えねばならん。貴殿を、倒さねばならん」

 アイラックスの騎馬が、静かに戦場へ踏み込んでいく。ルークを失った王国軍の兵達は、縋るようにその姿を見守っていた。
 もはや彼らにとっては、アイラックスだけが希望なのだ。

 帝国勇者はルークの骸からゆっくりと己の得物を引き抜き、アイラックスと相対する。騎士団長のルークを倒したにもかかわらず、その眼には一片の驕りもない。

『チヲ……チヲヨコセ……』

 しかし、その刀身から漂う禍々しい「力」は、今も帝国勇者の身体に渦巻いてい
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ