第一章 邂逅のブロンズソード
第1話 帝国勇者
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一方、帝国勇者と呼ばれる少年は何一つ語ることなく――ルークの気勢に怯むこともなく。ただ静かに、剣を構えていた。
(さぁ……貴様の剣を見せてみろ。この命、ただで貴様には――!)
そして、間合いを詰めたルークが、手にした両刃剣を振り上げた瞬間。
彼の胸を――片刃の剣が、貫いていた。
主の手元から打ち放たれたその剣は、二角獣の幻影を纏い――ルークの鎧ごと彼を貫通し、馬上から転落させてしまう。
その衝撃音が、静かになった戦場のただ中に虚しく響き渡っていた。
(――に、が、起きた。何が、起きたのだ。私は、なぜ……どのような技で……!?)
遠のいて行く意識の中で、ルークは己の敗因を模索する。あまりにも一瞬の出来事ゆえ、自分が死んでいく理由さえ掴めない。
その悔しさが目元に貯ろうとしていた時。ようやく彼は、胸に突き立てられた勇者の剣に気づくのだった。
(そうか、奴は……恐るべき速さで、己の剣を投げ付けたのか……。剣士の半身たる剣を投げるなど、やはり貴様は勇者失格よ……)
自分が気づけたなら、アイラックスにも見えていたはず。その希望的観測に胸を撫で下ろすルークは、静かに目を閉じて行く。
(ああ……ロークよ。せめてお前だけは、幸せを……)
そんな彼が最期に想い浮かべたのは、幼い我が子であった。父として、騎士として生きた彼の戦いは、その瞬間に――ようやく、終わりを迎える。
「ルーク……!」
その最期を見届けたアイラックスは、暫し目を閉じ――静寂に包まれた戦場の中で、黙祷を捧げる。
そして――僅かな時を経て、再びその眼が開かれた時。アイラックスの瞳には、燃え滾るような闘志が宿っていた。
ルークの命と引き換えに、帝国勇者の技を、己の眼に刻みつけて。
「遥か昔の帝国騎士が、空を舞う魔王の手先と戦うために編み出したという、伝説の対空剣術――『帝国式投剣術』。数十年前に帝国から入手した古文書に記されていたが、まさか実在していたとはな」
「……」
「――ルークの命が、私にそれを教えてくれた。彼と同じ父親として……王国軍人として。私はなんとしてもそれに応えねばならん。貴殿を、倒さねばならん」
アイラックスの騎馬が、静かに戦場へ踏み込んでいく。ルークを失った王国軍の兵達は、縋るようにその姿を見守っていた。
もはや彼らにとっては、アイラックスだけが希望なのだ。
帝国勇者はルークの骸からゆっくりと己の得物を引き抜き、アイラックスと相対する。騎士団長のルークを倒したにもかかわらず、その眼には一片の驕りもない。
『チヲ……チヲヨコセ……』
しかし、その刀身から漂う禍々しい「力」は、今も帝国勇者の身体に渦巻いてい
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