最終話 グーゼルの旅立ち
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の勇者としてここに留まらねばならないと思っていたグーゼルは、突然舞い込んできた決闘の内容に目を回す。
しかしそれは、もう一度彼に会える千載一遇のチャンスでもあった。
グーゼルは、どうしても彼に会わねばならなかった。伝えていない言葉があるからだ。
(……ごめんなさいと、ありがとうを。私はまだ、彼に伝えてない。行かなくちゃ。この気持ちを届けなくちゃ!)
それを決断した彼女には、もう迷いはない。
「クセニア姫、申し訳ありません……暫しの間、失礼しますっ!」
「ええ。……行きなさい、勇者グーゼル」
グーゼルは踵を返すとバルコニーを飛び出し、パーティ会場を駆け抜け――自室で素早く緑の服と軽鎧を纏う。
そして愛用の剣を腰に提げ、盾を背負うと瞬く間に城から飛び出してしまうのだった。
さながら、一迅の風のように。
「公女殿下! 先ほど、勇者様が息を切らせて城を飛び出されたと報告がありました! 一体何があったのです!?」
「グーゼルなら、旅に出ましたわ」
「た、旅ですと!?」
「ええ。……この国の英雄を探す、旅です」
彼女の行動を問い詰める兵達に、背中を向けたままクセニアは笑顔で答える。その瞳は、城下町を猛スピードで駆け抜けていくグーゼルの姿を見下ろしていた。
「じゃあ……行ってきます、お母さん!」
一方。城を出てから立ち止まることなく走り続けていた彼女は、戦没者を弔う記念碑の前でようやく足を止める。
そして、この地に眠る母に祈りを捧げると――再び、外の世界に向けて走り出して行った。あの日見失った背中を、抱き締めるために。
「待ってて、ダタッツ。あなたを、独りになんて――させないっ!」
夜空に向かって叫ぶグーゼルは、少女のように溌剌とした眼差しで、これから進んでいく道を見つめていた。この地平線のどこかで、彼と繋がっているのだと信じて。
――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
人智を超越する膂力。生命力。剣技。
神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
しかし、戦が終わる時。
男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
一騎当千。
その伝説だけを、彼らの世界に残して。
だが。
男はもう、独りにはならない。独りにさせまいとする者の想いは、やがて男を繋ぎ止め、その心に安らぎを与える。
その日はきっと――遠くはないだろう。
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