第二十六話 退所その十一
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「またこの部屋に来て」
「そしてここで、ですか」
「送別会を開くから」
「有り難うございます」
「オードブルにケーキに」
出すものはというのだ。
「それにジュースもあるから」
「それで、ですね」
「残念だけれどお酒はないわ」
このことは申し訳ないとだ、少し苦笑いになって断った。
「そちらはね」
「そうですか」
「ええ、それはね」
我慢してくれとだ、副所長は優花に行間で話した。
「そういうことで、あと今は普通は送別会はしないって言ったわね」
「はい」
「それは表向きでね」
「実はですか」
「それぞれの患者さんが個別に親しくなった療養所の職員の人と同性同士でね」
「送別会をですか」
「静かに開いているの」
この療養所ではというのだ。
「非公式でね」
「公ではないにしても」
「だからさっきそう言ったの」
「開かれていないって」
「そうよ、それで私はね」
「私と、ですね」
「そうしたいけれどいいかしら」
「お願いします」
これが優花の返事だった。
「副所長さんにはよくしてもらいましたし」
「私はずっと思っていたの」
「ずっと?」
「貴女が果たしてこれからどうなるのか」
女になろうとしてなる優花がというのだ。
「凄く心配だったの、けれどね」
「それでもですか」
「ええ、貴女はその心配を乗り越えてくれたわ」
「そうでしょうか」
「そう、私が思っていたよりもね」
さらにというのだ。
「立派にね」
「そうでしょうか」
「貴女は逃げなかったわね」
性別が変わるというあまりにも理不尽で唐突な現実、それにだ。
「常に向かっていたわね」
「ここに来るまでに決心しましたから」
「女の子になって生きることを」
「姉さんと友達が支えてくれて」
「それでもよ」
「私が決めたことですか」
「それで逃げなかったから」
だからだというのだ。
「私が思っていた以上と言ったのよ」
「そうですか」
「そうよ、人間は醜くもあるけれど」
今度は人間全体のことを話した、優花から人間全体を観ることができて人間についても考えることがデ来たのだ。
「美しくもあるの、この世で最も醜いものも美しいものもね」
「どちらもですか」
「人間にあるの、そのこともね」
優花を見てというのだ。
「思ったわ」
「僕は別に」
「奇麗な心は持っていないというのね」
「そんな、とても」
「そうね、ささやかではあるわ」
副所長が優花に観たものはというのだ。
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