巻ノ五十九 甲斐姫その七
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「成田家の娘であります」
「そうか、貴殿が甲斐姫か」
鋭い目になりだ、大谷は応えた。
「名は聞いている」
「私の名をご存知とは」
「有り難く思われるか」
「はい、しかしです」
それでもというのだった。
「ここは負けませぬ」
「それは我等も同じ、ではじゃ」
「死合いましょう」
「堤は壊させぬ、ではじゃ」
大谷は刀を抜いた、甲斐姫は既に馬上で薙刀を構えている。両者は互いに馬を飛ばしそのうえで一騎打ちをはじめた。
一騎打ちは十合二十合と続いたが決着はつかない、大谷も甲斐姫も一歩も引かず斬り合う。
だがそれでも勝敗はつかずだ、大谷が率いる兵達は驚きを隠せなかった。彼等は大谷の命通り堤を守る様に布陣している。
そのうえでだ、両者の深夜の一騎打ちを見つつ話した。
「大谷様と互角とは」
「あの甲斐姫強いぞ」
「うむ、相当にな」
「これ程の方は滅多におらぬぞ」
剣の腕も相当な大谷と互角の勝負をしていることに驚いているのだ、勝敗は中々つかず何時しか百合になっていた。
だがここでだった、甲斐姫は。
まずは間合いを離してだ、そのうえで。
薙刀を左手に持ち替えると右手からあるものを投げた、それは。
黒く丸いものだった、大谷は甲斐姫が間合いを離したのを見て一気に間合いを詰めようとしたがその一瞬にだった。
甲斐姫はそれを投げた、それは大谷を狙わずに。
堤、大谷の兵達のすぐ動くのそこに当たった。甲斐姫はそれを見て会心の笑みを浮かべ率いる兵達にも言った。
「続け!」
「はっ!」
「今こそですな!」
「堤に向けて投げろ!」
「いかん!撃て!」
大谷は甲斐姫の指示が何かすぐに察した、そのうえで率いる兵達に告げた。
「迷うな!敵兵達を撃て!」
「は、はい!」
「すぐに!」
大谷の兵達も応えすぐに鉄砲や弓矢を放とうとする、だがそれよりも前にだった。
甲斐姫の兵達はその黒く丸いものを投げると即座にだった、踵を返し退散した。鉄砲や弓矢は彼等がいた場所を通っただけだった。
甲斐姫も同じだった、既に戦の場を後にしていた。それはまさに一瞬のことだった。
その一瞬後にだ、大谷は兵達に大声で叫んだ。
「逃げよ!」
「!?一体」
「どうなったのですか」
「逃げよとは」
「ここの守りは」
「話は後じゃ、早く逃げよ!」
大谷は己の言葉にいぶかしむ兵達にさらに叫んだ。
「ここから去り高い場所に行くぞ!」
「わ、わかりました」
「それでは」
「馬を走らせよ!」
大谷は自ら馬に鞭をやった、そのうえで。
兵達をその場から去らせる、堤を守っていた者達も。
多くの者が去ることが出来た、だが。
中には逃げ遅れた者がいてだ、決壊した堤から出た濁流に飲み込まれてだった。
溺れ死ぬ
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