(一)歪んだ反抗
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、あきらめずに最後までよく頑張ったねって。」
「ばーか。それって一番ビリだったってことでしょ?
あんたは手先が不器用なのよ。ほんと、何やらせてもノロマなんだから。」
「でも、ほめてくれたよ。」
「それはね、ほめたんじゃないの。
待ちくたびれて、仕方なくそう言ったのよ。恥ずかしい。」
すると優香が持っていた花瓶を力任せに壁に投げつけ、白い破片が床に飛び散った。
「なにするのよ! 物に当たるんじゃないよ。」
千鶴子の言葉を背中で撥ねつけながら階段を駆け上る優香に、
ちょっと言い過ぎたかなと反省はしたものの、
夕飯までには機嫌が直るだろうと、それほど深刻には捉えなかった。
だが、それからというもの、優香は一層押し黙るようになった。
こっちから訊ねても、幼稚園の話しは二度としなくなった。
買い物や遊園地に誘っても、優香は黙って首を横に振り、ひとり人形遊びに耽る。
そんなことの繰り返しに、千鶴子もいつしか、娘のご機嫌取りをやめてしまった。
ある時、ふらっと立ち寄った夏祭りでヒヨコを買った。
ほんの気まぐれで買ったヒヨコだったが、優香に与えると驚くほど健気に可愛がった。
ところが数日後、「部屋が汚い。片づけろ。」と注意すると途端に癇癪を起し、
ヒヨコを乱暴に掴んで襖目がけて叩き付けた。
畳にぽとっと落ちたヒヨコは首がぐにゃりと折れ曲がり、息を吹き返すことはなかった。
その光景を思い出すたびに、千鶴子は今でも胸がずきんとするのだ。
指しゃぶりの癖も、その頃から目立ちだした気がする。
千鶴子はそんな娘が無性に心配だった。
このまま、来年小学校に上がったらきっと、
何か問題を起こして、教師から家庭での教育を疑われてしまう。
その心配を払拭したくて、ことあるごとにこう言い聞かせた。
「優香、そんなんじゃ、お友達に好かれないよ。
みんなに嫌われたくなかったら、とにかくニコニコしなさい。
笑うのよ、いい? しゃべんなくってもいいから。」
翌年、その言い聞かせの成否が問われる家庭訪問の日がついに来た。
千鶴子は100グラム6000円もする新茶を入れ、
手作りのイチゴ寒天を添えて男性教師をもてなした。
「いつも優香がお世話になっております。」と軽く会釈し、
冷やしておいたおしぼりをすすめる。
品の良いできた母親を装いつつ、内心は何を言われるかとビクビクだった。
「優香ちゃん、お勉強よくできてますよ。
この間、算数でグラフ作りをやったんですが、
優香ちゃんは棒グラフのてっぺんと目盛りを点線でつないで、
見やすい工夫をしてたんです。
だからお手本としてクラスのみんなにも見せてあげました。
音楽の時間もいつもお手本に歌ってもらってるんですよ。
まだ一年生なのに聖歌隊のような裏声
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