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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十二話 嵐の前、静けさの後
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と思っておりましたが、リューネブルクが居ましたな。感謝しますぞ、あの男と戦う場を与えてくださった事を」
「……酔狂な事だな、好きにするが良かろう」

オフレッサーは敬礼すると部屋を出て行った。オフレッサーの出て行ったドアを見ながら思った。酔狂な男、馬鹿な男、だがわしやリッテンハイム侯と一体何処が違うのだろう。滅びの道を歩み滅びの宴を楽しむ者、同じではないか……。

帝国が好きか、古い帝国が……。不器用な男だ。死に場所を求めてきたか、オフレッサー。ならばわしに出来る事は卿に散り場所を与える事だけか。厄介なことだ。自分の事だけで手一杯だというのに、あの男に美しく華々しい死に場所を与えねばならんとは……。



帝国暦 487年 12月 3日  オーディン  新無憂宮  エーリッヒ・ヴァレンシュタイン


「宮中でもブラスターを所持せねばならんとは、物騒な事じゃの」
「仕方がありません。何時、誰が、何処から命を狙ってくるかもしれませんから」

フンと不機嫌そうに鼻を鳴らすとリヒテンラーデ侯は俺の前を歩き出した。これからバラ園に向かう、皇帝フリードリヒ四世と非公式の謁見だ。護衛は俺と侯から少しはなれた位置から囲んでいるだけだ。俺達の話し声が聞こえる事は無い。

「暗赤色の六年間のようじゃの」
「そうですね、近衛兵が当てにならない事も似ています」
近衛兵が当てにならない、おそらくリヒテンラーデ侯は顔を顰めているだろう。

似ている事は他にもある、皇帝の名前がフリードリヒだ。だがそれは言わなかった、言えば老人は怒り出すだろう。

暗赤色の六年間、第二十代皇帝フリードリヒ三世の治世の晩年の事だ。帝国暦三百三十一年から三百三十七年の六年間を指す。この時代、陰謀、暗殺、テロが横行した。

近衛兵が反乱を起す事を恐れて「北苑竜騎兵旅団」、「西苑歩兵師団」が設置されるという信じられない時代だった。

この状態が長く続けば帝国は中枢部の混乱から崩壊していたかもしれない。だが晴眼帝と呼ばれたマクシミリアン・ヨーゼフ二世の登場で帝国は混乱と崩壊を回避し立て直された。マクシミリアン・ヨーゼフ二世が中興の祖と言われる由縁だ。

もっとも帝国が立て直された理由には自由惑星同盟の存在も大きかったと俺は思っている。ダゴン星域の敗戦で帝国は強大な敵を持つ事になった。内輪もめをしている状態ではない。そう考えた人間が多かったはずだ。

彼らはマクシミリアン・ヨーゼフ二世に協力を惜しまなかっただろう。マクシミリアン・ヨーゼフ二世の臣下と言えば司法尚書ミュンツァーが有名だが、ミュンツァーだけの協力で国政の建て直しが出来たわけでは有るまい。

「例の三年前の事件じゃが、犯人は未だ判らんのか?」
「残念ですが」
リヒテンラーデ侯が溜息を吐く
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