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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十九話 ウルリッヒ・ケスラーの肖像
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れば、あの件でオーベルシュタインはラングを失っている。つまり内務省から情報を得ることが出来なくなったのだ。謀略家にとって一番大切なのは正確な情報だ。オーベルシュタインはその情報源を失った。俺から見ればオーベルシュタインはとても勝利者とは言えない……。
ラングの失脚はケスラーがルッツからの依頼により調査した結果によるものとなっているが、そうなるとラインハルトが行幸に行く前には疑わしい部分がでず、ロイエンタールが反逆を起してからラングの陰謀が判明したことになる。この間一ヶ月ぐらいの時間しかない。タイミングが良すぎると思うのは俺だけだろうか。
ケスラーの上手い所は直接報告せず、ヒルダを通して報告した事だ。おまけにルッツからの依頼により調査したと言うことでルッツに対する罪悪感からかラインハルトはあっさりと丸め込められてしまう。
俺ならケスラーを呼びつけて行幸前に何故分からなかったととっちめている所だ。ルッツからの調査依頼というのも本当かどうか怪しいだろう。調査はそれ以前から行われていたはずだ。実際に調査依頼が有って利用したか、或いは死人に口無し、ラインハルトを丸め込むためにでっち上げて使ったという可能性もある。判断の難しい所だ。
ラインハルトはケスラーに見切られたのだ。ラインハルトは謀略には向かない。何故なら謀略とはプライドの高い男に出来る遊びではないからだ。謀略というのは自分が無力で弱くて惨めな存在だと思える人間だけが使える陰惨で不幸な遊戯なのだ。だから疲れる、だから嫌になる。そんな不幸な遊戯に淫するようになれば行き着く先は魑魅魍魎、百鬼夜行だ。人ではなくなる……。
ラングの失脚後、オーベルシュタインはケスラーを頼らざるを得なくなる。本当はケスラーを切り自分の意のままになる人物を憲兵総監にしたかっただろう。しかしケスラーの手元にはラングの供述書があった。オーベルシュタインこそが陰謀の主犯であるという供述書が。
あれがある限りオーベルシュタインはケスラーを切れない。ケスラーも供述書を表に出さない事でオーベルシュタインを守る姿勢を見せた。オーベルシュタインとしてもケスラーの配慮に黙らざるを得なかっただろう。そして地球教徒の最後のテロが起きた。
地球教徒はラインハルトとオーベルシュタインを間違えて襲撃した。間抜けと言って良いが、本当に間抜けだったのか。誰かに誘導されたという事は無いのか。ラインハルトが死ぬ以上、ラインハルトの負の部分を担った人間も死ぬべきだと誰かが思ったのではないのか……。
数多の謀略家たちの中でケスラーだけが生き残った。俺はケスラーを卑怯だとは思わない。謀略に卑怯などという言葉は無い。謀られるほうが間抜けなのであり、生き残った人間こそが勝利者なのだ。
ロイエンタール反逆から地球教徒の最後の襲撃まで、
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