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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十九話 ウルリッヒ・ケスラーの肖像
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は無かった。そして警察は内務省の管轄下にある……。

「三年前の事件は宮内省の顔の分からない男、内務省、フェザーン、ビーレフェルト伯爵の四者が起した事件だったのでしょう。おそらくビーレフェルト伯爵は船長に警察が臨検することなど無い、そう言ったはずです。実際警察はそうだった」
「……」

「問題なく終わるはずでした。ところが私が介入した、それで全てが狂った。事件が公になれば宮内省、内務省、フェザーンを巻き込む一大事件になります。特に内務省と宮内省の顔の分からない男にとっては致命傷でしょう。関与が発覚すれば間違いなく極刑です。彼らはビーレフェルト伯爵の口を塞ぐ事で身を護った」
「……」

「闇の左手が動いたと噂を流したのも内務省でしょう。その噂を流す事で捜査がおざなりになることを狙ったんです」
「……信じられない」

頭を振りながら呟くようにキスリングが吐いた。あの事件は皇帝の財産が絡んだにもかかわらず、尻すぼみに終わった。その事件の裏に宮内省、内務省、フェザーンの繋がりがあったと言っても信じられないかもしれない。まして皇帝の闇の左手の名が利用されたなど……。

「思い出すんだ、ギュンター、オーベルシュタインが陛下の健康問題を社会秩序維持局に確認した事を」
「……」

「社会秩序維持局はどうやって陛下の健康状態を確認したと思う?」
「……そうか、接触を受けた社会秩序維持局はそれを宮内省の協力者に問い合わせた、そういうことか……」
呻くようなキスリングの声だった。ケスラーは疲れたような表情をしている。

「宮内省の人間が陛下の健康状態を昨日今日知り合った人間に教えるはずが無い。そんなことが露見すれば機密漏洩で罷免されかねない。彼らは共犯者という強い絆で結ばれていたのさ」

お互いに急所を握り合っているようなものだ。目障りでもあろうが、一方の破滅はもう一方の破滅に繋がる。一蓮托生の運命だ、繋がりは強いだろう。

しばらくの間、誰も喋らなかった。考えているのか、疲れているのか……。ようやく話しかけてきたのはケスラーだった。
「司令長官、早急に宮内省の顔の見えない男を特定する必要があります」
「ええ、それが急務でしょうね」

「こうなったらラムスドルフ近衛兵総監に打ち明けて取り調べてもらったほうが良いのではありませんか、ケスラー提督」
「それは駄目だ、キスリング。簡単に分かるとは思えないし、相手を警戒させかねない」

その通りだ、最悪の場合宮中で暴発という事もありえるだろう。クロプシュトック侯事件の再現なんて事になりかねない。彼らは今ラムスドルフの取調べに気を取られているはずだ。むしろ別な点から切り込んだほうが良い。

「やはり三年前の事件をもう一度洗い直すしかないでしょう」
「からめ手から攻めるのです
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