巻ノ五十九 甲斐姫その五
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「その時はわしが行く」
「御主がか」
「そうじゃ、わしが甲斐姫と戦う」
腰の刀を手にしての言葉だ。
「御主はその時は堤全体を守れ、よいな」
「御主の剣の腕でか」
「防ぐ、何としてもな」
「大谷殿は剣の腕も確かですが」
島が大谷に言ってきた。
「その剣で、ですか」
「甲斐姫にあたる」
「そうされますか」
「だから御主は佐吉と共にじゃ」
「堤全体の守りをですな」
「頼んだ」
「さすれば」
「兵の数と布陣で勝っておる」
既にこの二つではというのだ。
「それを活かして戦えば甲斐姫といえどもな」
「退けられるな」
「退ける」
石田への返事は絶対にというものだった。
「ならばよいな」
「わかった、ではな」
「このまま守りを固めようぞ」
こう言ってだった、石田達は堤の守りを固めつつそれを築かせ続けた。そしてそのうえで忍城を水攻めにせんとしていた。
その状況を城の中から見てだ、甲斐姫は父に言った。
「では今宵です」
「うって出るか」
「はい」
まさにそうするというのだ。
「そしてです」
「堤を壊してか」
「城の危機を救います」
「そうするか」
「そしてです」
城の危機を救ってというのだ。
「生きて帰ってきます」
「死ぬつもりはないか」
「戦はまだ続きます」
例え堤を崩してもというのだ。
「ですから」
「戦が終わるまではか」
「何としても生きます」
毅然としての言葉だった。
「そうします」
「そうか、ではな」
「何としてもです」
まさにというのだ。
「堤を壊してきます」
「ではな」
「はい、それでは今宵」
こう話してだ、そのうえで。
甲斐姫はこっそりと夜襲の用意に入った、その時にだ。
城の外ではだ、大谷が城を見つつ言った。
「これはじゃ」
「うむ、そうじゃな」
「間違いありませぬな」
石田と島も城の方を見て言う。
「夜襲じゃな」
「それをしてきますな」
「飯を炊く煙が今から出ておる」
それも多くだ、三人共それを見て言うのだった。
「ならばな」
「今宵来るな」
「そうしてきますな」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「ここは守るぞ」
「堤をな」
「何があろうとも」
「ここまで築いたのじゃ」
堤、それをというのだ。
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