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真田十勇士
巻ノ五十九 甲斐姫その三

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「よいか、忍城から敵兵が来てもな」
「はい、堤には近寄せぬ」
「そうしますな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「堤を壊させるな」
「そしてですな」
「そのうえで堤を完成させ」
「水攻めにかかる」
「そうしますな」
「その通りじゃ、蟻一匹通すでないぞ」
「わかりました」
 兵達は石田の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼等は堤を的確に守っていた、その守りは大谷と石田の軍師である島左近が力を合わせて行っていてだった。
 忍城の者達も迂闊に手を出せなかった、それでだ。
 城主に成田は苦い顔でだ、城の主な者達にこう言った。
「これではじゃ」
「はい、どうにもですな」
「敵の堤を壊すことは出来ませぬな」
「どうしても」
「この状況では」
「うむ、石田殿は実は武にも優れているというが」
 ただ文の者だけではないとだ、成田は言った。
「実際にな」
「中々ですな」
「見事な采配ぶりですな」
「大谷殿、島殿の助けも受け」
「的確にことを進めていますな」
「うむ」
 その通りだとだ、また言った成田だった。
「これは迂闊にじゃ」
「攻められませぬ」
「そして攻められないならです」
「このまま川から水が入り込み」
「水攻めとなります」
「水攻めになればな」
 それでというのだ。
「我等は打つ手がなくなりじゃ」
「降るしかありませぬな」
「そうなるしかなくなりますな」
「そうなればこの城を攻めている敵がさらに動き」
「他の城を攻めまするな」
「この戦は辛い」
 北条家にとってとだ、成田はこうも言った。
「敗れるやも知れぬ、しかしじゃ」
「それでもですな」
「ここであの者達を動かすことはしない」
「この城に引き寄せ」
「動けない様にしますか」
「そうするべきじゃ、だからじゃ」
 この考え故にというのだ。
「この城を攻め落とすことはさせぬぞ」
「何としても」
「降ることもせぬ」
「あの者達は自由にさせぬ」
「何としてもですな」
「そうじゃ、水攻めが完成すれば降るしかない」
 その時はというのだ。
「兵達のことも考えればな」
「最早攻めるどころではなくなりますし」
「その場合は仕方ありませぬな」
「備中高松城の二の舞です」
「そうなりますな」
「だからじゃ」
 そのことがわかっているからこそとだ、成田は言うのだった。
「ここはな」
「何としてもですな」
「堤を壊しましょう」
「どうしようもなくなるまでに」
「何とか」
「そうしたが果たしてどうしたものか」
 袖の中で腕を組み考える顔になってだ、成田は考える顔になった。だがどうしても答えは見つからなかった。
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