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天国と地獄
第五章
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 隣の部屋にいた千佳は自分の部屋から出てだ、兄に尋ねた。
「阪神勝ったのね」
「ああ、今日やっとな」
「おめでとう」
「当然なんだよ」
 兄はにやりと笑って妹に言った。
「これまでがおかしかったんだ」
「まあずっと負けてたからね」
「それ自体がな」
 それこそというのだ。
「おかしかったんだよ」
「そして今日なのね」
「勝った、甲子園でな」
「普通本拠地での方が勝つのよ」
 あくまで普通はだ、しかし阪神というチームに普通という言葉は存在しない。常に何かが起こるチームなのだ。
「勝率はね」
「だからおかしかったんだよ」
「そうよね」
「広島にもだったけれどな」
 寿はこのことも言った。
「けれどそれはまだいい」
「広島にはなのね」
「来年リベンジだ、けれどなんだよ」
「巨人に本拠地で負け続けてきたから」
「どれだけ嫌だったか、けれどな」
「それが終わって」
「よかった、嬉しくて仕方ないからな」
 ここまで言ってだ、寿は準備体操をはじめた。見れば着ている服は白地に黒の縦縞のジャージである。阪神カラーだ。
「ダッシュで走って来るな」
「十キロ位?」
「こんな楽しい気分は久しぶりだ」
 実に晴れやかな顔で言う。
「ちょっと走って来る」
「それじゃあね」
「そして来年は違うからな」
 準備体操をしつつ妹にこうも言った。
「来年は阪神が日本一だからな」
「うちが連覇するけれど」
「そうはならないからな」
 笑って言ってだ、寿は準備体操を終えて走りに行った。その彼と殆ど入れ替わりの時間で父が帰ってきたが呆れて言った。
「全く、勝っても負けても騒がしい奴だ」
「そうよ、千佳もね」
 母は相変わらずにこにことしている娘を見つつ夫に応えた。
「こっちは広島で」
「あいつは阪神でな」
「好き過ぎてもうね」
「どうかしてるわ」
「どうかしててもいいじゃない」
 今は家のリビングにいる千佳はトマトジュースを飲んでいた、牛乳も好きだが赤なので牛乳の後に飲んで赤の帽子の白のユニフォームといつも言っている。
「好きなんだから」
「全く、好きだから幸せか」
「優勝して」
「勝っても負けても気になる」
「そういうことね」
「そうよ、まあ来年も優勝出来たら」
 千佳はここでこうも言った。
「私一生このことを忘れないから」
「それ御前のお兄ちゃんも言ってるからな」
「前のシリーズの時にね」
 ソフトバンクに抗議の横で胴上げをされたシリーズだ。
「一応阪神ファンとして応援はしておくな」
「広島嫌いじゃないから」
「まあ頑張れ」
「出来れば普通にね」
「普通になんてしないし出来ないから」
 千佳はガラスのコップの中のトマトジュースを飲みつつ両親に言葉を返した。
「生涯一鯉
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