巻ノ五十八 付け城その十
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「やはり」
「そうじゃな、しかし」
「しかしとは」
「北条家とは戦になっていますが」
「それでもか」
「はい、伊達家はこれから次第かと」
「降ればじゃな」
利家は自身の家老の言葉を受けて言った。
「それもないな」
「はい、そうかと」
「そうなるか」
「わかりませぬな、ただ」
兼続は己の目を鋭くさせて伊達家、もっと言えば伊達家の主である伊達正宗について話した。
「あの御仁の野心は強いです」
「噂には聞いていますが」
奥村が応える。
「そこまでですか」
「天下すらです」
「それもですか」
「望んでいるまでに」
「何と、そこまでとは」
「はい」
まさにというのだ。
「あの御仁の野心は強いです」
「左様ですか」
「ですから」
それ故にというのだ。
「ご注意です」
「わかりました」
奥村は兼続に答えた。
「噂以上のですな」
「危険な御仁です」
「天下までとは」
「生まれるのがより早く」
そしてというのだ。
「近畿や東海、せめて甲斐や安芸に生まれていれば」
「それで、か」
「はい、天下を争っていたでしょう」
こう利家にも話す。
「それ程の人物です」
「騎馬隊に鉄砲を持たせて戦うのは聞いておる」
利家にしてもというのだ。
「それはな、しかし」
「野心についてはですか」
「資質もな」
利家は兼続の話からそのことまで見抜いていて言うのだった。
「それだけあるとな」
「前田殿もそう思われますか」
「直江殿の言われる通りじゃ」
まさにというのだ。
「恐ろしい男じゃな」
「しかも二人の優れた家臣がおらまして」
「二人もか」
「片倉小十郎、伊達成実」
兼続はすぐにその二人の名も挙げた。
「このお二人がです」
「その伊達殿を支える」
「両腕です」
「その二人もいてか」
「伊達家は尚更強いです、ですから」
「ここで降ってもじゃな」
「用心が必要かと」
こう言うのだった。
「くれぐてもです」
「わかった、では関白殿にお話しておこう」
利家は秀吉と昔馴染みで今も親しい間柄だ、だから彼の場合は秀吉を様付けでなく殿付けでも許されているのだ。
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