巻ノ五十八 付け城その八
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「では真田殿に使者を送ってじゃ」
「降ることをお伝えする」
「そうしますな」
「うむ」
その通りという返事だった。
「そうするとしよう」
「わかりました、では」
「早速敵の本陣に使者を送りましょう」
「そしてそのうえで」
「降りましょう」
旗本達も言う、こうしてだった。
幸村は己の前に来た使者にだ、満面の笑顔でこう言った。
「わかり申した、では」
「はい、我等の命をですか」
「約束致す」
こう告げた。
「それがしも武士、ですから」
「約束はですか」
「真田の名にかけて」
決して、というのだ。
「必ず」
「それでは」
「城をお開け下され」
降る相手にも謙虚で穏やかな物腰で告げる。
「その様にされて下さい」
「ではこのこと殿にお伝えします」
使者もこう答えてだ、そしてだった。
城は一戦も交えることなく開城となった、幸村は城の者達の命を一切奪わず城を手に入れた、そのことを聞いてだった。
昌幸は他の城を囲んでいる時に笑ってだ、周りにいる者達に言った。
「源次郎がやったわ」
「城を陥とした」
「そうされましたか」
「一兵も失わずにな」
まさにというのだ。
「そうしたわ」
「ですか、源三郎様も城を一つそうされていますが」
「源次郎様もですな」
「そうされましたな」
「そうじゃ、しかし源三郎は兵糧攻めにして攻め落とした」
信之はというのだ。
「城の中の兵糧を忍を送って焼かせたうえでな」
「しかし源次郎様はですな」
「流言飛語で敵の士気を落とし」
「そうして開城にまでもっていかれた」
「それぞれ違いますな」
「うむ、しかし二人共戦わずして勝ったとはな」
昌幸は笑って言うのだった。
「見事じゃ、それでよい」
「戦わずして勝つ」
「まさにそれが最良ですな」
「だからこそですな」
「お二方はよいのですな」
「そうじゃ、しかも降った敵の命は奪わなかった」
二人共、というのだ。
「このこともよい」
「実にですな」
「そのことも」
「左様じゃ」
まさにというのだ。
「それでよい、帰ったら褒美をやろう」
「お二方に」
「その様にされますか」
「書をな」
自身が持っているそれをというのだ、二人共書が好きなのでそれを褒美にしようというのだ。
「そうします」
「ですか、では」
「その様にされますか」
「お二方の功を認められ」
「そうしますか」
「是非な」
こう言うだった、そして。
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