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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十七話 微笑、覚悟、野心……
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『第一次フェザーン侵攻作戦』……。フェザーンに攻め込むというのか……。

「その作戦計画書は持っていてください。お二人にはそれを理解して貰わなければなりません」
「それは、どういうことですか?」

ケスラー提督の訝しげな声に司令長官は微かに微笑んだ。
「私に万一の事が有った場合……」
「閣下!」
「大事な事なのです、メルカッツ提督」

司令長官は諌めようとした私を押し留めた。
「私に万一の事が有った場合、その時はメルカッツ提督が宇宙艦隊司令長官に親補されます」
「!」

宇宙艦隊司令長官! 私が?
「閣下、冗談はお止めください。ローエングラム伯が先任です。私は……」
「メルカッツ提督、これは帝国軍三長官、国務尚書の間で決まった決定事項なのです。逃げる事は出来ません」

宇宙艦隊司令長官、 私が……。隣にいるケスラー提督を見た。驚いたような表情はしていない。
「ケスラー提督、卿は知っていたのか?」

少し迷った後、司令長官に視線を向けてからケスラー提督は答えた。
「……はい」

「しかし、私にはそんな力はありません。誰よりも自分が分かっています。十万隻の艦隊、一千万の人間を死地に立たせるような器量は私には無い、短期間の代理ならともかく、司令長官など無理です」

そう、私にはそんな能力は無い、だからミュッケンベルガー元帥は私を戦場から遠ざけた。戦功を挙げさせないため、これ以上昇進させないためだ。だから此処で一個艦隊の司令官として扱われても不満には思わなかった。

一個艦隊の指揮ならミュッケンベルガー元帥にも目の前に居る司令長官にも劣るとは思わない。三個艦隊ならば何とか互角に渡り合えるだろう。だがそれ以上になれば自分が勝てるとは思えない……。

司令長官はローエングラム伯であるべきだ。確かに功に逸る所はある、不安定な所もあるだろう。今回もいささか眼に余る行動をしたのは確かだ。だがあれは少しでも混乱を収めたいという気持ちが空回りしただけだろう。能力は間違いなく有る。彼の足りない部分、未熟な部分を我々が補えば良い。

「閣下、宇宙艦隊司令長官はローエングラム伯であるべきです。彼なら……」
「ローエングラム伯は私が暗殺された場合、その首謀者として処断されます」
「まさか……」

司令長官は何時もの温顔を捨て冷たい表情をしている。ケスラー提督も驚いたような表情をしていない。この場で知らないのは私だけか、空調の利いている応接室の温度が一気に冷え込んだような感じがした。

「伯自身は私の暗殺など考えてはいないでしょう。しかし伯の周りにはそれを考える人間がいるのですよ」
「……」

「そして伯が宇宙艦隊司令長官になれば、その実戦力を背景に一気に簒奪に走るでしょう。彼は皇帝になりたがっている」

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