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東方虚空伝
六十二話 百鬼夜荒 伍
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 月明かりに照らされる大地を五十程の人影が駆けてゆく。
 夜闇に溶け込む様な黒色の外套で頭まで隠しておりその素顔を覗う事は出来ない。
 しかしその駆ける速度を見れば一般人でない事は明白であった。
 目指すべき場所があるのだろう、一糸乱れぬ動きで唯々前へと歩を進めている。

 小さな林を抜け少し開けた平原に足を踏み入れた瞬間、先頭をきっていた人物が片手を上げ後に続く集団へと静止をかける。
 すると訓練された軍隊の様に集団は整然と動きを止めた。

 彼等の前方には数十の人影があり、月明かりによってその姿が照らし出される。
 各々が統一された武具に身を包み、その佇まいは規律さを感じさせる。

 その彼等の先頭に立つのは一人の女性。
 夜風に流れる長い黒髪が月の光を反射し幻想的な雰囲気を醸し出している。
 まるで彼女の為に月が輝いているかのようだ。

「こんな夜更けに大勢引き連れて散策か?」

 女性――月詠(つくよみ)は見惚れる様な微笑みを浮かべながら外套の先駆者へと言葉をかけた。

 問われた者は、ゆっくりとその身を覆っていた外套を脱ぎ捨てる。
 素顔を曝した人物――曽根 覇夜斗は月詠に対抗するかの様に笑みを浮かべ鼻眼鏡押し上げながら、

「その風貌……大和の月詠様とお見受けします。
 いやはや噂通り…いえ噂以上の美しさ!お目にかかれて光栄です!」

 大仰な素振りで歯の浮くような台詞を吐く覇夜斗。
 だがそんなの言葉に興味など無いのか、月詠は詰まらなそうな視線を送り、

「世辞と受け取っておこう……戯れ言をほざいていないでとっとと答えろ」

 夜の様な静かな殺氣を放つ。
 彼女(月詠)の後方に控えている大和の神々すらその殺氣に冷や汗を流しているというのに、その殺氣をぶつけられている本人である覇夜斗は愉しそうに笑みを浮かべたままだった。

「良い月夜でしたもので、ついふらふらと………等と言っても信用などなさらないでしょう?……まぁ戯れ言は止めましょうか。
 逆に此方の方がお聞きしたい――――どうやって我々の奇襲に気付いたのですか?」

 笑みを消し覇夜斗は鋭い眼光を月詠へと向ける。
 その問いに今度は月詠が笑みを浮かべ、

「其方には残念な事だが、此方(大和)には優秀な軍神が居るものでね。
 彼奴(あやつ)が出兵する前に考えられる可能性を全て託されていただけだ」

 熊襲軍の強襲の報を受けた後、神奈子は考え得る限りの可能性を考察し都に待機する事になった月詠に託していた。
 あくまでも可能性の範疇ではあったが、哨戒に当てていた者達から所属不明の集団を発見したとの報があり部隊を待機させていたのだ。

 ただ一つ問題があり、戦力の大半を対熊襲軍へと割いてしまっている為に月
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