第二十五話 外の世界へその二
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「二年生よ」
「そういえばもう」
「ええ、進級しているわね」
「ここにいたらわかりにくかったですけれど」
外の世界と比較的隔絶された療養所にいるとだ、どうしてもそうなる。それで優花も今こうしたことを言ったのだ。
「けれど」
「それでもよね」
「時は進んでいるんですね」
「そうよ、時間は止まらないわ」
副所長もこう言う。
「少なくとも人間の手ではね」
「そうですね」
「心の中では止まることはあるけれど」
「心の中では」
「何かあってその何かに囚われて」
そうしてというのだ。
「心がその時で止まっている人がいるわ」
「子供の時とかに」
「そうした人はいるけれど」
「時間自体はですね」
「いつも流れているわ、だからね」
「僕もですね」
「二年生になっているのよ」
ここで副所長はこうも言った。
「単位はこの療養所で勉強もしてたでしょ」
「それで、ですか」
「ええ、単位もね」
「大丈夫なんですね」
「そうよ、だからね」
「二年生としてですか」
「編入するの」
その学校にというのだ。
「楽しくね」
「わかりました」
優花は確かな声と顔で副所長に答えた、そのうえでこうも言った。頭を深々と下げたそのうえでだ。
「そして有り難うございます」
「お礼はいいわ」
「ですが」
「最初からそうしようって決まっていたことだから」
「だからですか」
「私達にしてみれば当然のことだから」
それ故にというのだ。
「いいわ」
「そうですか」
「お礼を感じてるのならね」
それならとだ、副所長は優花に優しい笑顔で言った。
「これから明るく楽しく生きてね」
「私の人生を」
「そうしてね、女の子としてね」
「わかりました」
「完全に女の子になって」
そのうえでというのだ。
「幸せに生きてね」
「それがこの療養所の皆さんへのお礼ですか」
「そうよ」
微笑んでの返事だった。
「そうしてね」
「それじゃあ」
「ええ、あとね」
「あと?」
「私の名前は知ってるかしら」
「橋本夕実さんですね」
すぐにだ、優花は副所長に答えた。
「そうですね」
「知っていてくれてるのね」
「いつも副所長さんって呼んでましたけれど」
「有り難う、名前を知ってくれていて」
今度は副所長が礼を述べた。
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