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真田十勇士
巻ノ五十八 付け城その六

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「空なら攻め取るのは何でもないな」
「はい、それこそ」
「家と同じです」
「空き家に入ることも同じです」
「それならば」
「そうじゃ、むしろじゃ」
 まさにと言うのだった。
「人が大事なのじゃ」
「だからですな」
「ここは人が大事ですな」
「城を守る人を攻める」
「そのことこそが」
「うむ、そしてじゃ」
 さらに言う幸村だった。
「関白様はそれをされておる」
「だからですな」
「小田原の城をああして攻めておられる」
「そういうことですか」
「うむ、そしてその人も大事じゃ」
 幸村は城を守る人のことも話した。
「そちらもじゃ」
「人もですか」
「城を守る人の質ですな」
「それも大事なのですな」
「城は人が守るからこそ」
「強き者、賢き者が守る城は強い」
 幸村は言い切った。
「そうした城はな、しかしな」
「弱兵、愚者が守る城は弱い」
「そうなりますか」
「うむ、そして城の者の心がまとまっていなければ」
 守るという意志を以てだ。
「それも駄目じゃ」
「北条氏政殿は愚かではないですが」
「戦もお強いですが」
「家臣の方々も」
「しかしですか」
「ならば心を乱すのじゃ」
 守る者が強いのなら、というのだ。
「先程言った通りな」
「そういうことですか」
「強い者ならば心を乱す」
「そうすればよいですか」
「そうじゃ、囲み逃げられぬ様にすればそれも容易い」
 丁度今の小田原の様にというのだ、幸村は今囲んでいる敵の城を見つつ言った。これから攻めるところである。
「思う存分策を仕掛けられるからな」
「ですか、では」
「小田原城は守る人の心を攻められ続けられますか」
「このまま」
「そうなりますか」
「そしてじゃ」 
 やがてはというのだ。
「陥ちる」
「そうなりますか」
「あのまま」
「やがては」
「そうなる、最早な」
 こう言うのだった、そして。
 幸村は今彼等が囲んでいる北条方の小さな城を見てだ、十勇士達に言った。
「拙者もそうしたい」
「では、ですな」
「この城は攻めぬ」
「そうお考えですか」
「城は攻めぬ」
 こう言う、実際に。
「だからな」
「はい、それではですな」
「我等が動き」
「そしてですな」
「そのうえで」
「城の中に入ってもらう」
 十勇士達に言った。
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