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Sword Art Rider-Awakening Clock Up
裏切り
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ているカラー・カーソルを確認した。間違いなくNPCのタグがついてる。名前は《アガサ》とある。少女にしては男みたいな名前だった。

アガサの背中を右手で優しくさすった母親は、「傍らの椅子に腰掛けると」言った。

「アガサ。ほら、旅の剣士さまが、森から薬を取ってきてくださったのよ。これを飲めば、きっと良くなるわ」

そして、左手に持っていたカップを少女に握らせる。

「……うん」

アガサは可愛らしい声で頷くと、カップを小さな両手で支え、コクコクと飲み干した。パアッと黄金の光が降り注ぎ、顔色が一気によくなって、少女はベッドから飛び降りて走り回る……なんてことはなかった。

しかし、カップを下ろしたアガサの頬は、ほんの少しだけ赤みを増してるように見えた。

空になったカップを母親に返したアガサは、立ち尽くす俺をもう一度見て、ニコリと笑った。唇が動き、やや舌足らずな言葉が、ささやかな宝石のように溢れた。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「………」

何も答えることができず、俺は両眼を見開いた。

昔……ずっと昔にも、こんなことがあった。

現実世界でオートマトンと戦った際、瀕死(ひんし)の重傷を負った俺はロクに動くこともできなかった。重傷を負ったまま晶彦の居場所へ戻る訳にもいかず、人目のない所に隠れ、体内のナノマシンが自然治癒してくれるまで待つしかなかった。

しかし。

そんな俺を救ってくれたのが、あの不思議で満ち溢れていた少年……《加賀美(かがみ)真司(しんじ)》だった。

真司(しんじ)は、当時敵対関係にあったはずの俺を、自分が暮らしていた養護施設へ運び、ベッドに寝かせ、懸命に看病してくれた。死を憎み、消え去る命の炎を……(いつく)しむように。

でも……その真司(しんじ)は、もういない。

「……うっ……く……」

不意に、そんな声が、勝手に喉の奥から漏れた。

時々、思ってしまう。……真司(しんじ)に会いたい、と。

過去を振り返り、強い衝動を受けた俺は、疲れ果てたようによろけ、アガサのベッドに両手を()いた。そのまま床に膝を下ろし、白いシーツをきつく握りしめて、俺は再度低い声を漏らした。

いくら会いたいと思っても、真司(しんじ)はここに現れない。例えSAO世界から解放されても、二度と会うことはできない。親代わりに俺を育ててくれた茅場晶彦も、今はデスゲームを引き起こした首謀者として指名手配されているはず。俺を現実に繋ぎ止めてくれる人は誰もいないのだ。今にして思えば、俺はこの世界の虜囚(りょしゅう)となる以前から、自分がどんな生い立ちを送るべきなのか、すでに悟っていたのだ。

死んでもかまわない、と思っている。だが、かと言って今すぐ死にたいわけではない。自分に与え
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