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譲り特急
譲り特急
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[1] 最後
 『情けは人の為ならず』という(ことわざ)がある。
 他人に情けをかけると、その情けがめぐりめぐってやがて自分に返ってくる。そういう(ことわざ)である。
 その(ことわざ)が何を言いたいのかは理解できる。しかし、めぐりめぐってやがて自分に返ってくるという事が、俺には想像できない。
 小学生の時、国語の授業で初めてこの(ことわざ)を習った時に、俺は先生に1つ質問をした。
 ――先生、自分がかけた情けが、どうやって自分に戻ってくるんですか?
 ――具体的な例を挙げろ、と言われると難しいですね。情けがどうやって自分に返ってくるのか、自分で考えてみたらどうですか? きっと面白いですよ。もし、いい例を思いついたら、ぜひ先生にも教えて下さいね。
 俺の質問に対して、先生は『自分で考えてみたらどうか』と提案した。
 高齢の先生だった。高齢になると、自分が小学生の時の記憶は遠い昔の事となり、小学生がどんな生き物であるのか忘れてしまうものかもしれない。
 自分で考えろ、と言われて実際に自分で考える小学生がどれ程いるというのか? それとも、この子は考える事ができる子だと期待されていたのだろうか?



 そんな記憶も昔のことである。
 俺は今や社会人。社会人としてはまだまだ新米な年齢であるが、だいぶ社会人としての常識と自覚が身についてきたと自分では思っている。
 そして俺は現在、ニッポンで1番の大都会、都京(とうきょう)の中心の駅、都京(とうきょう)駅に来ている。
 平日の朝。都京(とうきょう)駅は、通勤や通学の人々でごった返している。スーツを着て会社に向かうサラリーマンたち。普段は俺も、あの『サラリーマンたち』の構成要素の1つだが、今日は違う。
 今日、俺は通勤のために都京(とうきょう)駅にいるのではない。仕事で繁忙期を乗り越えた俺は、休暇をとって温泉にいくのである。
 温泉に行くのは俺1人ではなく、もう1人いる。そいつが来なければ俺は動き出せない。
「おお、もう来てるね速川!」
 金古鉄郎(かねこ てつろう)が、俺の名前を呼びながら近づいてきた。
「じゃあ、早速ホームに行こうか」
 そう言って金古は歩き出す。俺は何も考えずについていくだけだ。
 金古鉄郎(かねこ てつろう)。俺の高校時代の友人の鉄道マニアである。鉄道マニアをこじらせて、ついに鉄道会社に就職した強者(つわもの)である。
 俺は今日、金古と共に列車で大滋温泉(だいじおんせん)という観光地に行くのである。鉄道会社で駅員として働いている金古は、不規則勤務なので、平日や土日はあまり関係ない。列車が関連する事は全て、プロの金古に任せてある。俺は一切知らない。
 前を歩く金古は、迷うことなく都京(とうきょう)駅を進んでいく。

 金古についていき、プラットホーム
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