譲り特急
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てくることがあるのかも知れない。
列車は和士別駅を発車した。
金古を議論したせいか、喉が渇いた。財布から500円玉を取り出し、自動販売機に向かう。自動販売機がある号車は金古が教えてくれた。
車両の繋ぎ目は、通れる場所が狭くなっている。ここで、対向から人が歩いてくるのが見えた。
特に大きな荷物を持っている訳ではなく、頑張ればすれ違えそうだが、車両の繋ぎ目に先に到着した相手に俺は道を譲った。
相手は俺に一礼をして去っていった。相手に道を譲ったことで、果たして譲らなかった時よりも早く目的地に着けるかと聞かれれば、首をかしげざるを得ない。
しかし、道を譲ったことで分かったことが1つある。相手に道を譲っても、そんなに時間のロスにはならない。
道を譲る事は、自分の人生の多くの時間が無駄になるように思っていたが、実際にやってみると、拍子抜けするくらい短い時間の出来事であった。
いくつか車両を抜け、自動販売機がある号車へ辿り着いた。
反対側から、自動販売機に向かって歩いてくる人がいた。自動販売機からの距離は、俺も相手も同じくらいだ。強引に自動販売機に近づけば俺が先に買える。だが、あえて相手に先を譲ることにした。他人に先を譲るという自分にとっては未知の行動は、何か新しい発見を俺にもたらすかも知れないからだ。
相手は俺に一礼して、自動販売機に小銭を入れようとする。相手は一瞬、小銭を入れる手を止め、それから別の小銭を取り出して入れ、即座にボタンを押して飲み物を買った。お釣りは無かった。
相手は去り際に自動販売機をチラッと見てから去っていった。何か気になったことでもあったのか。
俺は500円玉を入れて120円の飲み物を買った。お釣りがジャラジャラと出てくる。ふと自動販売機を見ると、買う前には無かったランプが点いている。10円玉の釣銭切れを知らせるランプだ。
ああ、俺より先に買った人が気にしてたのはこれか。釣銭切れだったから10円玉に変えたんだ。買った後に釣銭切れが消えたから、俺には何も言わずに去っていったのか。
俺は小銭を500円玉しか持っていなかった。もし俺が先に買ってたら、話がややこしくなっただろう。相手に、「10円玉で先に買ってくれませんか」と頼んで。二度手間だ。
『情けは人の為ならず』という諺がある。
他人に情けをかけると、その情けがめぐりめぐってやがて自分に返ってくる。そういう諺である。
そういう事は日常的に起きているのかもしれない。しかし俺たちはなかなか気がつかない。鶴の恩返しのような大きい見返りを期待するあまり、小さな見返りに気がついていないのかもしれない。
大滋温泉で休暇を過ごす間、少し譲ることを心がけてみようか。そして、
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