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譲り特急
譲り特急
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けっこう上手くいかないもんだな。いや、まだ何か解決方法はあるハズだ。考えろ。金古を論破するんだ。何かないか? ああ、そうだ。
「だったら、塩池(しおいけ)駅で対向の普通列車と出会った後、我ら特急はそのまま塩池(しおいけ)に留まって、後からくる対向の特急を待てばいいだろ? なにも木々田(きぎた)駅で普通列車が来るのを待つ必要はないだろ?」
 我ながら良い考えだと思う。そうだよ。1つの駅で2回行き違いをしてはいけないなんてルールは無いだろ。さあ金古、反論はあるのか? ……ありそうだな。目が語ってる。お前の考えは違うって。金古が口を開く。
「それこそ対向列車待ちを、今やるのか、後回しにするか、の違いだと思うけど。先に普通列車を待つか、後で特急列車を待つか、この違い。しかも後者の方が待ち時間が長い」
 一旦区切り、再度金古が口を開く。
「今の問題は、いかにして僕らの待ち時間を少なく奥にいる対向の特急列車と入れ違うか、この1点。その場しのぎで普通列車と待ち時間を少なく入れ違っても意味は無い。
・まず時刻表に書いてある実際のダイヤを考えると、木々田(きぎた)で普通列車を待つ時間は2分、塩池(しおいけ)では相手が先に待っているから特急列車を待つ時間は0分。合計で2分。
・対して速川の案だと、木々田(きぎた)で普通列車を待つ時間は0分だけど、問題は塩池(しおいけ)での待ち時間だ。塩池(しおいけ)に僕たちが停まった後、普通列車が発車する。列車は安全第一だから、列車の間隔が開かないと列車は進めない。道路を走る車みたいな感覚じゃないんだ。だから普通列車が去った瞬間に、後ろの特急が即座に塩池(しおいけ)に入ることはできない。特急が入ってくる頃には2分くらいは経っていると思うね」
 マジか。相手を待つ事。相手に道を譲る事。これを実行する方が自分自身も早く目的地に着くことができるのか。鉄道とはなんという怪奇なものだ。
 そして今度、金古は俺の性格について言及する。
「だいたい速川は昔から、せっかちで短絡的だ。その場限りの利益だけ考えて、後のことを考えない。高校の時もそうだ。部室棟になってた旧校舎の狭い廊下。あそこでお前、絶対に道を譲らなかったよな。お前が道を譲れば、お前自身も早く目的地に着けるような状況、何回もあったぜ」
 そんな訳あるか。と言いたいが、鉄道の時刻表の世界では相手に道を譲った方が自分も早く目的地に着けるという例を知ったばかりだ。もしかしたら、その怪奇な現象が起こるのは鉄道だけでなく、この世界では普通に起きていることなのかもしれない。
 『情けは人の為ならず』という(ことわざ)がある。
 他人に情けをかけると、その情けがめぐりめぐってやがて自分に返ってくる。そういう(ことわざ)である。
 しかし現実には、めぐりめぐらずとも、一瞬で自分に返っ
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