譲り特急
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ない人に与えた情けが返ってくる確率など0%だろう。ならば情けを与える必要性はない。
とにかく、俺は今大きな荷物をすり抜け、トイレにたどり着いた。
列車は、鼎川の次の停車駅の中小町を出発してしばらく時間が経った。列車は森の中を走っているらしく、周りの風景はとにかく森である。
列車が速度を落とし始めた。そろそろ次の駅かと思うが、次の停車駅の接近を知らせる自動放送は流れない。まさか、また列車の行き違いか?
列車は小さな駅に停まった。木々田駅と書いてある。ここで、車掌による肉声放送が入った。
「え、列車の行き違いのため停車しております。発車まで……え、2分程お待ちください」
2分ぐらいなら我慢してやろう。そう思ってなんとなく駅を眺めることにした。
しかし事件は起きた。
対向から現れた列車は、特急列車ではなく普通列車だった。
おいおい、我らが天下の特急列車は、いつから普通列車の為に待つようになったんだ?
いくら行き違いでも、我ら天下の特急列車が、普通列車に待たされるなんて事があって良いのだろうか? 金古に訊いてみよう。
「なあ金古。こっちが特急なのに、なんで普通列車を待たなきゃいけないんだ?」
金古は俺の問いに対して時刻表を開き、やがて納得した様子を見て、今度は俺の方を向いた。金古は時刻表に乗っている路線図を俺に見せながら説明を始める。
「今、僕たちは木々田駅にいる。1つ先に塩池駅がある」
「ああ」
「この木々田駅で対向の普通列車を待った後、今度は先にある塩池駅で特急列車と入れ違う。これは相手側が先に着いて待っている」
ん? ちょっとまて。1つ先の塩池駅で入れ違い? つまり塩池駅は入れ違いができる駅? だったら……
「だったら、普通列車を先に塩池駅で待たせておいて、後から来た俺たちが塩池駅を通過すれば済む話なんじゃないか?」
思った事をそのまま口に出した。そうだよ。普通列車が塩池駅を発車するからダメなんだ。塩池駅でおとなしく我らが特急を待っていればいいのに。さあどうなんだ金古? 納得いく説明をしてもらおうか? 俺は金古の反論を待った。
「それが、そうは上手くいかない。向こうから来る普通列車のすぐ後ろには、特急列車が後を追っている。もし、塩池駅で僕らと普通列車が行違ったら、その先(僕たちが今から向かう方向)の特急列車を処理できない」
「じゃあ、その向こうからくる特急は、塩池駅よりも先のどっかの駅に待たせておけばいいだろ?」
「残念。塩池駅より先は、駅を3つ行かないと行き違い可能な駅が無い」
あれ?
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