譲り特急
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となく納得はできない。
事件はそれだけで終わらなかった。
待たされた坂々井駅を出発後、わずか2分で次の停車駅の鼎川に到着した。見ればこの駅、線路が3本あり、上りと下りの行き違いができそうな駅である。
「なあ金古、俺たちがさっき4分も待たなくても、この駅で行き違いをすればよかったんじゃないのか?」
俺の質問に対し、金古は窓の外の鼎川駅を見渡した後で答えた。
「今、僕たちの列車が停まっているホーム、階段を使わないで改札口まで行けるよね」
言われて、俺は駅の構造を見る。
1階にある駅舎から改札口を抜けると、いきなり1番線のホームがある。1番線は俺たちの列車が停まっている場所だ。
2番線と3番線のホームに行くには、階段を使う必要がありそうだ。
金古の説明が再開される。
「この駅で特急同士を行き違いさせると、どちらかの特急は2番線と3番線側のホームに追いやられる。つまり、どちらかのお客さんは、階段を上らされる訳だよ。優先されるべき特急列車に乗っているにも関わらずね」
なるほど。優先とは、なにも早く着くことだけではない。快適さでも優先されなければいけない。色んな人の、色んな優先を考えた結果、今の形があるのか。
列車は鼎川駅を出発した。俺はトイレに行くために席を立った。座席が並ぶスペースを抜け、金古に教えられたトイレのある号車を目指す。
車両の繋ぎ目は、通れる場所が狭くなっている。ここで、対向から大きな荷物を持った人が歩いてくるのが見えた。おそらく鼎川駅から乗ってきて、自分の指定席に向かっている途中なのだろう。
俺は道を譲ることなく、構わずに進んだ。いくら狭い場所といっても関係ない。俺たちは人間であり、線路を進む列車ではない。狭い場所でもすれ違うことができる。
それに、相手はただ単に自分の座席へ移動している途中だ。対して俺はトイレに向かう途中である。急いでいるのは俺の方。列車で言うなら、特急列車は俺のハズだ。
強い意思で狭い道を進んでいく。相手は、『自分が通り抜けるまで待ってろよ』と言いたげな視線だが、関係ない。
相手は立ち止まり、仕方なく持っている荷物を体の片側によせた。予想外に大きな荷物で、すり抜けるのに時間がかかった。
ふと、家の近くの道を思い出した。
家の近くにも狭い通路がある。当然、俺は道を譲ったことがない。いつでも強気で道を譲らない俺をみた友達が、俺をたしなめたこともある。
――速ちゃん、たまには道を譲れば? ほら、よく言うじゃん「情けは人の為ならず」って。譲った情けは、いつか自分に返ってくるよ
相手が知っている人物であれば、情けは返ってくるかもしれない。しかし通行人は知らない人である。その場限りの知ら
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