暁 〜小説投稿サイト〜
譲り特急
譲り特急
[2/9]

[1] [9] 最後 最初
へたどり着いた。
 目の前には、特急列車が停車している。乗降のドアは1車両に1個存在するだけで、座席は全て進行方向を向いている。まさに、列車で座ることを目的に作られた車両。普段、通勤に使っている一般の車両とはオーラが違う。
 ホームの上にある電光掲示板に目を向ける。
 『特急スーパーえちみね5号 8:00 大慈温泉』と書いてある。
 なんだ、都京(とうきょう)駅からこの列車で1本で行けるのか。知らなかった。
 金古は足早に列車の中に入っていった。長い付き合いだから分かる、あいつは列車に乗るのが楽しみでワクワクしている。お前、駅員だろ。毎日列車を見てるだろ。飽きないでよくやるなアイツも。



 俺と金古が乗っている列車は、午前8時0分の発車時刻ピッタリに動き出した。
 金古に窓際を譲ってもらった俺は、窓から外を眺めることにした。実は俺は、特急列車が大好きだ。
 誤解無きよう言っておくが、俺は決して鉄道マニアではない。ただ単に、優先されるものが好きなのだ。
 俺は、他人に優先される事が好きで、他人を優先することが嫌い、というやっかいな性格なのだ。狭い道で対向から人が来ても、自分から譲ることは絶対にしない。高速道路で車を運転する時は、常に追い越し車線を走行する。
 同じ理屈で、特急列車も好きだ。鉄道における特急列車は、その路線において最上位の存在である。特急列車を抜かす者は存在せず、特急列車の前を走る他の列車は、特急のために道(線路)を開けて、特急列車が通り過ぎるのを待つ運命にある。
 俺が外の景色を見るのも、抜かされる列車、つまり俺たちを優先している者たちを見るためだ。さあ、下等列車どもよ、我ら特急列車のために道を開けるのだ!
「まもなく、日比沼(ひびぬま)に到着します。お出口は、右側です」
 停車駅が近づいたことを知らせる自動放送がかかった。え、もう停車するのかよ? まだ発車して5分も経ってないぜ? もっと優先されてもいいんじゃないの? くそう、金古に質問してイライラを解消してやる。
「金古、もう停まるのかよ? 全然、特別に急いでないじゃん」
 さあ、どう答える金古? 納得する答えを聞かせてもらおうか?
「いやあ、しょうがないでしょ。日比沼(ひびぬま)駅は大きい駅だし。この後からは、かなり駅を通過するから」
 あまり納得できる答えではなかった。しかし、日比沼(ひびぬま)駅に停車し、人が多く乗ってくるのを見れば、停車するのも仕方がないと思うしかない。
 日比沼(ひびぬま)駅を出発してすぐ、再び車内の自動放送が流れる。
「ご利用の列車は、スーパーえちみね5号、大滋温泉(だいじおんせん)行きです。途中の停車駅は、国府原(こうのばら)鼎川(かなえがわ)中小町(なかこまち)和士別(わしべつ)九頭谷(くずたに)、越峰成
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ