妖精の尻尾 《後》
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「巻き込むなド阿保おおおお!!!」
右手でルーシィの、左手でニアの腕を掴んだナツが全力疾走していた。気づけばハッピーは、こんなの日常茶飯事だと言わんばかりに慣れた様子でナツの隣を走っている。
ニアはまあやらかしたからともかくとして何故、と聞けば、笑みを浮かべたナツが言う。
「だって妖精の尻尾、入りてんだろ?」
さも当たり前のように問われて、ルーシィは目を丸くする。
昼間のような誘いではない。本物で、本当で、間違いなくチャンス。
ふと、同じく手を引かれているニアと目が合う。目が合った事に気づいた彼は、昼間のように微笑んで見せた。普段のニヒルなそれではなく、薄いながらも口角を上げて。
「来いよ」
笑ったナツを見て、ニアが穏やかに微笑んで頷いてみせるのを見て。
投げかけられた言葉が本当だと裏付けるのにこれ以上のものはない。ルーシィの顔に、自然と笑みが浮かんだ。
「うん!!!!」
「ま〜た妖精の尻尾のバカ共がやらかしおった!!!」
ばんっ!!と。
評議院の本部、その一室。評議員十人が卓を囲み会議を開くテーブルに、新聞が叩き付けられた。大きく取り上げられているのは、ハルジオンの港が半壊したという記事。
「今度は港半壊ですぞ!!!信じられますかな!?」
「いつか街一つ消えてもおかしくない!!!」
「縁起でもない事言わんでくれ……本当にやりそうじゃ」
「罪人ボラの検挙の為と政府には報告しておきましたがね」
「いやはや…」
会議室中に響く、妖精の尻尾を糾弾する声。ある者は声高に叫び、ある者は気疲れしたように呟き、ある者は呆れたように首を振る。
そんな中でこの状況を楽しむように笑う男が一人。組んだ手に顎を乗せて笑みを隠そうともしないのは、評議員の一人でありながら問題視される彼、ジークレインだった。
「オレはああいうバカ共、結構好きだけどな」
「貴様は黙っとれ!!!」
面白おかしく口を挟む彼に即座に注意が飛ぶ。
評議員十人のうち数人を除いた面々が、真剣な表情で話し合いを続ける。
「確かにバカ共じゃが、有能な人材が多いのもまた事実」
「だからこそ思案に余る」
「痛し痒しとはこの事ですな」
徐々に重くなる空気。大きな決定を委ねられているからこその固さ。
それを吹き飛ばすように大きく、ジークレインは溜息を吐いた。
「放っておきゃいーんすよ」
「何だと貴様!!!」
噛みつかれるが、彼は何も変えない。
浮かべた笑みは崩さず、一言だって撤回せず、組んだ腕だって解かずに。
「あんなバカ達がいないと…この世界は面白くない」
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