妖精の尻尾 《後》
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ふわりと、その右手から、細い髪が一本落ちて。
開いたページの真ん中に、静かに着地した。
―――刹那、黒い魔力が集束する。
黒の輪が一気に収縮し、ほんの一瞬を無音にした。
その、僅か数秒。輪が消えた事により侵入も妨害も可能になったというのに、誰も動けない数秒間。
魔力の集束と同時に床に展開した黒い魔法陣が光を放つ。足元から紫の光に照らされて、溢れ出る魔力に影響されてかゆっくりと空気が渦を巻き始めた中央で、右手を前に伸ばして、男達を指さして。
ぱさり、と風の勢いでフードが外れる。長めの前髪が風で上がり、隠れ気味の顔が露わになる。
水色の目が、一際強い輝きを帯びて。
「“魂魄解放”、第××頁より召喚―――来い、ランスロット!!!」
高らかに叫んだ、瞬間。
開いた本のページから魔力と髪を依代に、一人の魂が―――解き放たれた。
《――――全く、人使いの…いや、魂使いの荒い奴、と言うべきか。この程度ならお前一人で十分だろうに、妙なところで怠惰なのは変わらんな》
とん、と、誰かが降り立つ音がした。
ニアの正面、晴れた光の奥。呆れたような色を乗せた、落ち着きのあるテノールが凛と響く。ようやく光が消えて視界がクリアになったらしい男達は、先ほどまでいなかった姿に揃いも揃って目を丸くした。
水色の髪に深い青の瞳、いっそ作り物とすら思える程端正な顔立ち。白銀に輝く鎧を纏い、腰には鞘に納められた真っ直ぐな剣。鎧を装備しているにも拘らずほっそりとした印象の、同性異性関係なしに一度は魅入ってしまうような、そんな不思議な魅力を持った青年が、すっと前を見据えて立っている。
「別に怠惰な訳じゃない。自分の手は汚さないだけだ」
《その言い訳も何度聞いたか。……まあいいだろう、これも我等が理想郷の為だ》
苦笑した顔を真剣なそれへと切り替えて、青年は剣の柄に手を添える。しゃらん、と涼やかな音を立てて抜かれた剣は鎧同様に穢れ一つない白銀で、その音でようやく男達は正気に戻ったようだった。
「そ…そんな男一人増えたくれえで!!」
「魔導士だろうが人の手借りなきゃ何も出来ねえ奴だ!!いけるぞ!!!」
威勢を取り戻した男達が動き出す。対し、ニアはやれやれとでも言いたげに肩を竦めさえする余裕の態度。片手で本をぱたんと閉じて、響く男達の声が鬱陶しいのか右手で片耳を抑え、加えて片目を閉じて嫌そうな顔で。
「ランスロット」
《騎士として、名乗るくらいは構わないだろう?》
「無駄な喧しさが消えるなら何だって」
そうか、と青年は一つ頷いた。剣を両手で持ち、構える。
《――――アルディーン王国、円卓騎士団が二番》
少しでも意識を逸らせば見えなくなってしまいそうな、そこにいるのに不確
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